しかも、意外だったのは、大橋巨泉に批判された時はむきになって反論していた太田が、批判精神の重要性を説く辻に対しては、「そうなんですか?」「それはすごい」などとしきりに同意。その主張に説得されていたことだ。
冒頭でも指摘したが、太田はもともと、強い批判精神をもった芸人だった。とくに2000年代はじめには雑誌連載や単行本、さらにはラジオで、憲法や教科書問題、靖国神社などに踏み込み、右傾化の風潮を徹底批判していた。
しかも、それはたんに過激というだけでなく、中沢新一との共著『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)のタイトルが象徴的なように、今までにない新しいかたちの表現をとっていて、強い訴求力をもっていた。
それが、右翼団体の抗議を受けて以降、一気にトーンダウン。以降のだらしなさは本サイトでも何度か指摘したが、しかし、今からでもけっして遅くはない。太田にはぜひ、同じ事務所の辻にしょっちゅう会って、影響を受け、その批判精神を取り戻してほしい。
憲法解釈による集団的自衛権容認、安保法制の制定という10年前とは比べようもないほど戦争への危機が高まっている現在こそ、「憲法九条を世界遺産に」と叫んだ太田のセンスが必要なのだから。
(伊勢崎馨)
最終更新:2015.08.17 07:02