だが、いくら考えても調べても、思いつくのはせいぜい3名しかいない。それは、西修・駒澤大学名誉教授と、百地章・日本大学教授、そして八木秀次・麗澤大学教授だけだ。参考人として国会に呼ばれた憲法学者のひとりである小林節・慶應義塾大学名誉教授も、昨日の審議会後に「日本の憲法学者は何百人もいるが、(違憲ではないと言うのは)2、3人。(違憲とみるのが)学説上の常識であり、歴史的常識だ」(朝日新聞より)と語ったというが、きっと小林氏の頭のなかにもこの3名の顔が浮かんだはずだ。
しかも、この3名は揃いも揃ってかなりのトンデモ発言を連発している面々なのである。
まず、西氏と百地氏は、2013年に産経新聞が発表した憲法改正草案「国民の憲法」の起草委員でもあるのだが、この中身が凄まじい。「日本は立憲君主国と国柄を明記」にはじまり、「天皇は元首で国の永続性の象徴」「国の安全、独立を守る軍を保持」「家族の尊重規定を新設」「国民は国を守る義務を負う」などなど、自民党の改正草案以上の戦前回帰ぶりなのだ。この改正案からは西氏と百地氏のイデオロギーがありありとわかるが、実際、西氏は今年3月に開催された講演会でも「平和主義は日本だけのものではなく、非常事態に国民の権利を一部制限して対処することも当たり前になった」と発言。百地氏も「例えば国家そのものが存亡の危機にある場合、国益、国民全体の利益を守るためには、一時的に人権が制限される場合がありうる」(TBS『サンデーモーニング』/13年6月)と述べるなど、国家のために国民の人権も立憲主義も停止する悪名高い“緊急事態条項論”をもちだす始末。彼らの頭には“基本的人権”も“立憲主義”もない様子だ。
さらに、八木氏については、既報の通り、「正論」(産経新聞社)14年5月号で天皇の護憲発言を取り上げ、「両陛下は安倍内閣や自民党の憲法に関する見解を誤解されている」「両陛下のご発言が、安倍内閣が進めようとしている憲法改正への懸念の表明のように国民に受け止められかねない」と、安倍首相の擁護のためなら天皇をも批判する、保守ならぬ“安倍主義者”というべき論を展開。また、拉致問題解決のための集会後のデモで「全ての朝鮮人を東京湾にたたき込め」というシュプレヒコールが上がったことについても、「外国勢力の関与も疑われる」(「正論」15年1月号)とヘイト丸出しの記述を行っている。
──これがまともな憲法学者の態度なのか?と大いに疑問が湧いてくるが、一応、この3名のなかで唯一、憲法学の権威のひとりとされている西氏にしても専門は比較憲法学で、憲法の運用や条文解釈などの専門家ではない。また、西氏は安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で有識者委員を務めていることから今回の審議会に招致することはできなかったのだろう。一方、百地氏、八木氏にいたっては、「正論」や産経新聞では御用達なので保守界隈では著名なのかもしれないが、憲法学者としての知名度は低く、憲法学者というよりも政治イデオロギーを前面に押し出したタカ派論客、たんなる戦前回帰&ヘイト容認のネトウヨと同レベルの人物でしかない。結局のところ、安保法制を「合憲」と言うのはこの程度のメンツしかおらず、まともに憲法を専門にする学者ならば、とても合憲などとは言えないシロモノなのだ。