思えば集団的自衛権の行使容認も、安倍首相らはそれを「自主性の回復」などと称しているが、実際には長年にわたるアメリカの要求を自民党が呑んだにすぎない。つまり、対米隷属の態度を貫いていることには変わらない。白井は内田との対談のなかでこう述べている。
「安倍さんの最近の憲法に関する発言を見ていて気持ち悪いのは、(日本国)憲法が大嫌いなはずのくせに褒めることです。『解釈改憲をすることによって、憲法九条の平和主義の精神をより一層実現することができるんだ』などと言うわけですよね。(略)これは憲法に対するレイプですよ。なんでそういうレイプをしたいのかというと、憲法はアメリカの置き土産なわけですから、アメリカの分身ですよね。そのアメリカの分身をアメリカの命令によってレイプするという奇妙奇天烈な状況にある。世界最強の軍隊の活動に自衛隊を差し出せば世界最強軍団の一部になれるってわけです。これはつまり、アメリカというバイアグラを飲んで無理矢理勃たせるということです」
アメリカ=バイアグラというのはなかなか言い得て妙な表現だが、しかし、一方の内田は安倍首相がその「永続敗戦」というジレンマや矛盾を自覚しておらず、むしろ「不思議なやり方」で処理していると述べる。
「かつての『対米従属を通じての対米自立』は一人の人間の中に面従腹背という葛藤を呼び込んだ。だから言うことがわかりにくいものになった。でも、安倍さんは違う。『対米従属』と『アメリカが嫌がることをする権利』がバーター交換されている」
たとえば、普天間基地問題で仲井眞沖縄県知事(当時)を懐柔した直後におこなった靖国参拝や、集団的自衛権行使容認の閣議決定の直後に解除した北朝鮮への経済制裁。これらが「バーター」だったというのである。
「問題は、従属の代償に受け取るのは『アメリカが嫌がることをする権利』であって、日本の国益ではないということです。(略)本来なら国益と国益のトレードのレベルの話であったものが、国益と(靖国参拝に代表される)私益のトレードの次元に移動している。だからこそ、葛藤がないんです。日本が何かを失って、その代わりに安倍晋三個人が何かを得るという構図ですから、葛藤のしようがない。僕が人格乖離というのはそのような状態のことです」(内田)
ようするに、日本という国が安倍首相の個人的なマスターベーションの道具になっていると、内田はいうのだ。しかも、その存在はアメリカをはじめとする国際社会にとっても脅威になっていると分析。「今やアメリカの東アジア戦略上の最大のリスクファクターは安倍晋三です」と断言する。
そういえば、先日来日したメルケル独首相も、講演会や民主党の岡田代表との会談などで、明らかに安倍政権の歴史修正主義の動きを危険視する発言をしている。
「人格乖離」の「インポ・マッチョ」な首相に引きずられて、日本はいったいどこに向かうのだろうか。
(梶田陽介)
最終更新:2019.02.05 01:47