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鼻血騒動の『美味しんぼ』福島編が単行本に! 抗議で訂正説も実際は…

 他にもいくつか変更された部分はある。しかし多くは、少し慎重な言い回しになったというくらいで、トーンはまったく変わっていない。実名で登場した福島の関係者も、表現は柔らかくなっているが、発言を撤回した者は誰もいない。

 鼻血に関する記述でも、双葉町の前町長・井戸川克隆の「私も鼻血が出ます 今度の立候補をやめたのは疲労感が堪え難いまでになったからです」「私が知るだけでも同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけなんです」という発言は一切訂正されることなく単行本に収録されている。

 いい加減なデマの拡散のようにいわれていた『美味しんぼ』だが、作者も取材を受けた関係者もまったくぶれることなく、信念をつらぬいているのだ。

 逆に言うと、それくらい自分たちの主張や発言に自信があるということだろう。

 そもそも、本作は「鼻血」の部分だけがクローズアップされたが、2012年6月から翌年4月まで福島各地で取材したものをベースにしており、地元の多くの人々の生の声で構成されたドキュメントでもある。

 被災者たちがセシウムを吸収するといわれているゼオライトをまき、全ての米袋を対象に放射性物質検査を実施するなど、食の安全をなんとか確保しながら農業を続けようと苦心している様子を丁寧に描き、一方で除染やモニタリングポストの操作(元の表土をはいで、別の土を入れ、その上にコンクリートの土台まで作ってのモニタリング)などの不正を追及していた。

 福島の自然や食を愛し、それ故に放射線と原発事故を憎む。そんな作者の思いが詰まった作品だった。きちんと読めば、騒動当時に批判された「風評被害の拡散」などではなく、逆に「風評被害を是正する」ものであることがよくわかる。

 ところが、原発再稼働をもくろむ政府と除染利権に群がる地元政界、健康被害が表沙汰になっては困る関係者が、「鼻血」の記述だけに問題を矮小化して、このマンガが主張しているこうした記述をすべて「デマ」だと決めつけてしまったのだ。

 だが、すべての除染が現実には不可能であり、福島の一部が永久に人の住める状態でないこと、そしてモニタリングに不正があることは、まぎれもない事実である。

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