『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 』(文春新書)
あらゆる批判を「左翼の陰謀」「朝日の捏造」と切って捨て、暴走を続ける安倍晋三首相。しかし、批判的なのは「左翼」だけではないようだ。最近、保守派からも評価の高い大物評論家二人が安倍首相にキツいダメ出しをして、話題になっている。
ダメ出しの主は、佐藤優と池上彰。二人とも当代きっての売れっ子だが、最近、戦争や紛争、テロをテーマにした対談本『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』(文春新書)を出版。その中で、安倍政権の安全保障政策に対してかなり踏み込んだ指摘をしているのだ。
とくに、佐藤は以前は安倍首相を評価していたはずが、今回の対談では、その政策を“支離滅裂”と斬って捨てている。
〈佐藤 兵庫県の県会議員が号泣し、それがネットに流れて話題になりましたが、世界から日本は、あの議員に近い感じで見られているのではないでしょうか。
というのも、朝鮮半島有事に備えて集団的自衛権を閣議決定する一方で、すぐに北朝鮮の制裁を一部解除してしまう。そして、集団的自衛権を確保しても、いま最も緊張している中東には行かないと、イラクという国名まで出して明言しました〉
佐藤は安倍政権の支離滅裂ぶりが顕著に現れたのが集団的自衛権の問題だと指摘する。
〈佐藤 二〇一四年七月一日に「集団的自衛権の行使を認める」という閣議決定がなされました。あのとき、ホルムズ海峡の国際航路帯の封鎖が議論されましたが、たとえ封鎖されても、日本の自衛隊は絶対に出動できません。(中略)
そもそもホルムズ海峡の周辺は、アラブ首長国連邦の領土なのですが、海峡を望むムサンダム半島の先端だけは、オマーン領の飛び地になっていて、オマーン政府が海上をパトロールしています。なぜかといえば、オマーンは、船乗りシンドバットの国で、かつてマダガスカルからインドまで展開していた海洋大国だったからです。そういう経緯から海上交通の要衝は、飛び地のようにオマーンに属しているので、もしイランがホルムズ海峡を封鎖するなら、オマーンの領海内に機雷を敷設することになる。
国際法では、他国の領海内に機雷を敷設すれば、その瞬間に宣戦布告として扱われ、戦争状態となります。ところが『戦闘状態の地域には自衛隊は行かない』というのが、今回の集団的自衛権に関する閣議決定の縛りです。(中略)自民党が得たのは『集団的自衛権』という名前だけ。これで、自衛隊は出動できない体制になりました〉
そして、これを安倍首相が知っていたのなら「不誠実」であり、そうでないなら「恐るべき無知」だと断罪するのだ。