『STAP細胞に群がった悪いヤツら』(新潮社)
今年の流行語大賞にまでノミネートされた「STAP細胞はあります」。小保方晴子が「あります!」と宣言しては、「あるわけないだろ!」とバッシングが膨らんでいく喜劇が続いた今年の上半期だったが、彼女の論文の共著者でもあり一番の理解者でもあった理化学研究所CDB副センター長・笹井芳樹が8月に自殺すると、マスコミ各社は彼を「素晴らしい研究者だった」と雑に褒めた後、たちまち今件への興味を失ってしまった。
小保方によるSTAP細胞の検証実験はこの11月末まで続いていた。監視カメラ付きの実験室で作製実験が行なわれ、いよいよ「あります!」と言えなくなる実験結果が報告されるはずだが、理化学研究所は実験結果の公表日程を「あくまでも未定」としているから、このまま布団をかぶって騒ぎが去るのを待つ算段かもしれない。
「私たちは関係ない。小保方1人でやったこと」とトカゲのしっぽ切りに励んだ理研は、STAP細胞を発表する時には「小保方さんを支えた私たち」と組織の力を猛アピールしていた。STAP細胞騒動の濁りまくった暗闘に迫った小畑峰太郎『STAP細胞に群がった悪いヤツら』(新潮社)を開くと、ピンクの壁紙の実験室で割烹着を着て実験に励んだリケジョが、幾人ものコントローラーに操られて右往左往させられたラジコンカーに過ぎなかったことが分かる。
そもそも、科学に投じられる国費は、公共事業などに比べても、国民に手放しで許容されがちなジャンルである。例えば公共事業の一例として、治水は5942億円、道路整備は1兆323億円、新幹線は706億円(いずれも2013年度予算)であるのに対し、科学技術予算には9713億円(2014年度予算)が充てられており、予算枠として上昇カーブを続ける稀有な領域だ。著者は「安倍政権がアベノミクスの『第三の矢』として再生医療分野に目をつけているのも時代の趨勢と軌を一にしている」と指摘し、その結果、「研究に際しては建物や設備などの拡充が不可欠で、こうした国家による設備に対する投資は事実上の公共事業として機能している」とする。
確かに、小保方が「ネイチャー」誌にSTAP論文を発表するや否や、下村博文文科相は興奮気味に「若手研究者や女性研究者が活躍しやすい環境づくりを推進し、関連施策を充実することで、第2、第3の小保方氏や、画期的な研究成果が生み出されるよう応援してまいります」と宣言し(1月31日定例会見)、官邸は彼女に総合技術科学会議への出席まで要請した。つまり、政府は「女性が輝く社会」の筆頭に小保方を据えようと画策していたわけ。“長ネギ”の小渕優子、“うちわ”の松島みどり、それぞれ失脚した女性大臣の登用に先んじて、“STAP細胞”の小保方で失敗していたわけだ。