現行の労働基準法では、会社が残業代を払わなくていいのは部長職など上級管理職や研究者などの一部専門職に限定されている。これを年収1000万円を超える社員のほか、労働組合との合意で認められた社員全般に広げようというのである。いずれも本人の同意が必要という条件がつけられているが、「クビ切り自由化」や「限定正社員制度」などとまとめて導入されるわけだから、社員に選択の余地などないのである。
こんな制度が導入されれば、仕事ができて使い減りのしない働き盛りの社員に仕事がどんどん集中して、タダ働きの長時間労働が強いられることは明らかだ。多様で柔軟な働き方など真っ赤なウソと言っていい。
もうひとつ、安倍政権が熱心に取り組んでいるのが労働者派遣の“規制緩和”だ。
そもそも派遣労働は「労働力を必要とする企業は労働者を直接雇用しなければならない」という大原則に反する雇用で、当初は専門性の高い限られた職種にのみ、例外として許されていた。それが「(また出た)多様な働き方の実現」だとか「労働者のニーズに応える」といった欺瞞的な理由で対象職種が拡大されるなど、“企業側のニーズ”に沿った法改正が繰り返された歴史がある。
それでも建前としては、派遣は徐々に縮小して、直接雇用の労働者を増やす方向性にはなっていた。2008年のリーマンショック後の「派遣切り」を契機に行われた法改正では、初めて「派遣労働者の保護」が明記されもした。繰り返すが、派遣はあくまでも例外的な働き方だ。必要な人材なら会社は正社員として直接雇用しなければならないし、継続的に必要な業務なら会社は正社員を充てなければならないことになっている。
ところが安倍政権は、こうした過去に積み上げられた議論を一切捨てて、企業が望めば派遣社員を「安い労働力」として、いつまでも使い続けたり、使い回しができるようにしようとしている。
具体的には、無期雇用派遣については常用代替防止の原則(正社員を派遣労働者に置き換えてはいけないという原則)を取っ払って、派遣期間の制限も一切なくすというのだ。
これはどういうことかというと、通常、派遣は3年以内と決まっているが、派遣会社(派遣元)に正社員(無期雇用)として採用されていれば、この期間の制限(規制)がなくなり、いつまでも派遣として働き続けられるというものだ。
一見すると派遣労働者にもメリットがありそうに思えるが、トリックがある。本来、それだけ長く必要な業務なら、会社は派遣でなく正社員を置かなければならない。もし、その業務にあたる派遣社員が優秀で、ずっとその仕事をやって欲しいと思ったら正社員として採用しなければならないのだ。