『ホット・ゾーン──「エボラ出血熱」制圧に命を懸けた人々』(飛鳥新社)
西アフリカで過去最大規模の感染拡大を続けるエボラ出血熱は、ついにアメリカにまで上陸する事態となっている。エボラ患者に対応したアメリカの医療関係者が二次感染したのだ。これまでアフリカの一部の地域に止まっていたエボラの拡大に先進国は震え上がった。
しかしエボラの世界的な感染、パンデミックの危険性は既に20年前から警告されていたことだ。それがエボラの恐怖を描いたノンフィクション『ホット・ゾーン』(リチャード・プレストン/高見浩訳/飛鳥新社)だ。今回の感染拡大を受け復刻版も刊行されたが、それにはエボラウイルスが人類にとって、どれほどの脅威かが余すことなく描かれている。本書の舞台は1989年のアメリカバージニア州レストン。ここで熱帯地域から輸入されてくるサルの検疫所でエボラ感染によるサルの大量死が起こる。これに対しアメリカ陸軍は総力を挙げこれを鎮圧していくというものだ。そこには鎮圧作戦に関与した軍関係者、医療関係者のウイルス感染への“恐怖”も描かれており、まさに予言のノンフィクションといえるものだ。
なかでも戦慄させられるのはエボラに感染した人々の症状のディテールだ。これまでの報道で、エボラの致死率の高さ、脅威はさかんに喧伝されているが、しかしエボラが人間の人体にどんな悲惨な状況を引き起こすのか、どうやって肉体を死滅させていくかは、あまり具体的には伝えられてこなかった。それはまさに恐怖としかいいようのないもので、その詳細を報道するのがはばかれるからなのかもしれない。しかし本書によるとそれは予想以上に破壊的でセンセーショナルでさえある。
犠牲者のひとり、ケニア西部に暮らすフランス人のシャルル・モネの症状を紹介しよう。彼はガールフレンドと国立公園に野営し、洞窟に入った。
「段々状の岩盤は緑色の粘ついた物体で覆われていた。それはコウモリの糞だった」
モネは洞窟を訪ねてから7日後に頭痛を感じた。それは「眼球の奥に疼くような痛み」だった。
「頭痛はひどくなる一方だった。眼球が痛み、こめかみも痛みはじめた。痛みは頭の内部をぐるぐる回転しているようだった」
さらに背中に激痛を覚え、吐き気を覚え、熱が出て、嘔吐する。それだけでなく奇妙な外形的な激変も始める。
「表情が顔から失われ、眼球が麻痺したように固定した結果、顔全体が仮面に似てきた。おまけに目蓋がやや垂れ下がり、目が半ば閉じながら飛び出したような、妙な様相を帯びた」
モネはまるでゾンビのようになったという。また眼球は真っ赤に充血し、顔の皮膚は全体に黄ばみ、赤い星のような斑点も出る。モネは治療のために飛行機に乗った。しかしそこでも上体を折る姿勢となり嘔吐を繰り返した。