『news23』小川彩佳「政治家は誰ひとり責任を取っていない」
そもそも一介の官僚でしかない佐川氏が、自分の国会答弁と辻褄をあわせるために近畿財務局まで巻き込んで公文書を改ざんするよう指示をおこなうことなど現実的にはありえず、もっと大きな力が働いていたことは確実だ。しかも、少なくとも22日の段階で官邸と財務省が昭恵夫人の関与を示す文書が存在することを確認・共有していたこと、真っ先に昭恵夫人や安倍首相の名前を削除されていった事実からも、この公文書の改ざんは安倍首相の「総理を辞める」答弁が引き金となり、安倍官邸が佐川理財局長に指示をしておこなわれたとしか考えられないのだ。
実際、財務省の背後に安倍官邸の存在があることを裏付ける証拠もある。それは、2018年8月に日本共産党が公開した「航空局長と理財局長との意見交換概要」という文書だ。
この概要は、2017年9月7日に、国税庁長官に栄転した佐川氏に代わって理財局長となった太田氏と中村総務課長の財務省コンビと、国交省の蝦名邦晴・航空局長、金井昭彦総務課長(すべて当時)の4名が、会計検査院の検査や国会対応への協力関係を確認し意見交換をおこなった際の発言録だ。
この文書では、太田理財局長と中村総務課長の財務省側は何度も「官邸」という言葉を持ち出し、官邸の意向を気に掛けているのだが、そのなかで、太田・中村側はこんな発言をおこなっている。
「検査院に対しては官邸だからといって通用しない。説明していくタイミングも考える必要がある。両局長が官邸をまわっている姿をマスコミに見られるのはよくない。まずは寺岡を通じて官房長官への対応するのが基本。与党へもいずれは何らかの対応が必要だろう。相手は検査院なのでこのような報告が出てしまうのはしかたがないとの認識を持たせていくことが必要」
「寺岡」というのは寺岡光博・官房長官秘書官のことを指していると思われるが、じつは、寺岡氏は前述した2017年2月22日の菅官房長官が佐川氏や中村氏、太田氏らを呼び付けた面談にも同席していたことがわかっている。つまり、会計検査院の報告や国会対応をどうごまかすかを、財務省はパイプ役の寺岡官房長官秘書官を通して、狡猾かつ綿密に安倍官邸と相談・報告をおこなっていたのだ。
証拠はこれだけではない。2018年6月に共産党の辰巳孝太郎議員(当時)が独自入手して参院決算委員会であきらかにした財務省と国交省のやりとりをまとめたメモには、さらに衝撃的な事実が出てくるからだ。
この文書は、財務省が森友学園側との交渉記録(応接録)と改ざん前決裁文書を2018年5月23日に国会提出することを決めたのと同時期に作成されたと思われるもので、そこには〈近畿財務局と理財局のやり取りについては、最高裁まで争う覚悟で非公表とする〉という発言が飛び出すなど、改ざんの事実が明るみに出たあとも財務省が文書を隠蔽していることを示す重要なものなのだが、さらにこんな記述も出てくるのだ。
〈5/23の後、調査報告書をいつ出すかは、刑事処分がいつになるかに依存している。官邸も早くということで、法務省に何度も巻きを入れているが、刑事処分が5/25夜という話はなくなりそうで、翌週と思われる。〉
刑事処分の発表後に調査報告書を出す──。事実、大阪地検特捜部が佐川氏をはじめ告発されていた財務省幹部および近畿財務局職員計38人の不起訴処分を公表したのは、2018年5月31日のこと。財務省が調査報告書を公表したのは4日後の6月4日だ。つまり、財務省は佐川氏らが不起訴となる結果をすでに把握しており、その上でいつ調査報告書を出すかを決めていたのだ。財務省の調査報告書は完全な出来レースだったのである。
だが、注目すべきは、〈官邸も早くということで、法務省に何度も巻きを入れている〉という部分だ。これは、大阪地検の不起訴処分という捜査結果を早く公表するよう、官邸が法務省に対して圧力をかけていた、ということ。ようするに、政治的独立性を保持すべき検察の捜査結果に、官邸が法務省を通じて介入していたことを、この文書は裏付けているのである。
しかも、当時の法務省事務次官は、現在、違法な定年延長が問題になっている黒川弘務・東京高検検事長だった。本サイトでもお伝えしてきたように、当初は佐川氏らの立件を目指していた大阪地検特捜部の捜査を潰したのは黒川氏だと言われており、実際、黒川氏が官邸の意を受けて捜査ストップに動き、山本真千子・大阪地検特捜部長(当時)と裏取引をおこなったという情報も流れていた。この官邸─黒川というラインが大阪地検特捜部の捜査に介入していたことは、この文書でもあきらかなのだ。
改ざんにいたる前の佐川氏ら財務官僚との秘密の面談、その後の国会答弁や会計検査院の検査についての綿密な相談・報告、そして大阪地検特捜部の捜査結果まで──。すべてにおいて、安倍官邸が司令塔となって取り仕切っていたことは、疑いようもない事実なのである。
しかし、ここまで証拠がありながら、安倍首相は一向に責任を認めようとしなかった。それどころか、公文書改ざんという国家的犯罪を引き起こし、赤木さんを死まで追い詰めたというのに、あろうことか麻生財務相を続投させた。結局、安倍首相に反省の色は微塵もなく、その後も「桜を見る会」という税金の私物化や公文書廃棄といった森友疑惑と同じ問題を平気で繰り返している。
だが、赤木さんの遺書と手記が公開され、良識をもって公文書改ざんに抵抗した人物をいかに踏みつけにしてきたのかがはっきりと示されたいま、自分に責任などないという姿勢を取りつづける安倍首相を、許すことはできまい。
実際、普段は弱腰なテレビからもそうした声もあがっている。昨日19日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)では、赤木さんの遺書と手記が公開されたことについて、女優の高木美保がこんなコメントをしていた。
「もしかすると佐川さんという人が(改ざんを)やらせたのかもしれないけども、それが忖度による判断だったと。誰に忖度したかって、政治家ですよね。総理大臣、あるいは家族なのかもしれませんが、そういったことをやはりシラを切りつづけて、国会の場でもあれだけ『文書がありません』『残っていません』、そういったことを言いつづけたことに対して、私たち国民は『もう過ぎたことだよね』って言っちゃいけないなってことを、人間として教えられた気がします」
また、18日放送の『news23』(TBS)では、小川彩佳キャスターが「まずは赤木さんの意志を継いだ奥様に敬意を表したいと感じるんですね。それがなければ、私たちは赤木さんから見えていた景色を見ることができなかったわけです」と言及した上で、「この件について政治家は誰ひとりとして責任を取っていないという現実があります」と指摘。それを受けて星浩氏は「安倍首相が根拠のない国会答弁をして、その答弁に合わせて官僚たちが文書を改ざんするということになって、赤木さんは板挟みにあって悩んだ末に自殺に追い込まれるという、前代未聞の事件」と言い、安倍首相や麻生財務相の責任は極めて重いとした。
赤木さんから見えていた景色を、遺してくれた言葉によって私たちは知ることができた。だからこそ、私たちは、もう見過ごすことはできない。改ざん問題を引き起こした責任を、安倍首相に今度こそは認めさせなければならないのである。
(編集部)
最終更新:2020.03.20 07:49