国籍主義を採用せずナショナリズムを越えようとするラグビー
スポーツとナショナリズムの親和性の高さはよく指摘されることだが、しかし上述のとおり、ラグビーは他のスポーツと違って国籍主義を採用していない、ナショナリズムから最も遠いスポーツと言ってもいい。もともとはラグビー発祥国である大英帝国から植民地に入植した人々が現地の代表チームにも入ることができるようにつくられた仕組みといわれているが、ひるがえって現在では、多文化共生を目指すこれからの国際社会においてひとつのモデルとなる可能性を見出す向きも多い。
日本代表選手にもそうした意識はある。ウェブサイト「nippon.com」によれば、日本代表のキャプテンを務めるリーチ・マイケル選手が、こんな言葉を残しているという。
「これからの日本は、外国から来た人たちと一緒に社会をつくっていかなきゃいけない。ラグビー日本代表は、日本の社会に対して、いいモデルをつくれるんじゃないか。いいメッセージを発信できるんじゃないかと思うんです」
こういったアンチナショナリズムの姿勢はラグビー選手にとって広く共有されているものである。ワールドカップイングランド大会で一躍時の人となった五郎丸歩選手が〈ラグビーが注目されている今だからこそ日本代表にいる外国人選手にもスポットを。彼らは母国の代表よりも日本を選び日本のために戦っている最高の仲間だ〉とツイートして話題となったのはまだ記憶に新しい。
『560五郎丸歩 PHOTO BOOK』(マガジンハウス)のインタビューによると、五郎丸選手はこのツイートをきっかけに、さらにグローバルな考え方をするようになったことを明かしている。
「オリンピックの日本代表は日本国籍の選手がなるものですよね。ラグビーは国籍が違ってもなることができる。2013年にウェールズ、2014年にイタリアという強豪国に勝っても、評論家をはじめ、多くの方々から外国人のおかげだという言い方をされる。2019年に向けてクリアしなければいけない問題だと思っていました、南アフリカに勝って注目されるのがわかっていたので、いま自分が発信しなければいけないと思ったのです。
ただし、そのときはラグビーをオリンピックの枠で理解してもらおうという意識でした。ツイートして以降、いろんなことを考えました。すると、自分の中で考えが逆転したのです。宇宙飛行士が宇宙から地球をながめたとき、『国境はなかった』と言う。でも、現実には世界中で人種差別があり、国対抗の大会をやっている。ラグビーは、プレーしている場所に3年住めば国籍を変えずとも代表になることができる。どちらがスポーツの本質をとらえているかというと、ラグビーではないかと思うようになったのです。国籍にとらわれないラグビーは、いい意味での『スペシャル』です、ツイートによって自分の考えが逆転した。このことは自分のラグビー人生にとって非常に大きかったと思います」