「表現の不自由展・その後」公式サイトより
「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」中止問題は、皮肉にも、安倍政権下の日本でどれだけ「表現の自由」が抑圧されているかを表してしまった。市民による展示中止撤回の抗議運動や署名も広がる一方で、本来、「表現の自由」を擁護する側のクリエイターの一部から、戦中の慰安婦問題を象徴する「平和の少女像」の展示等を批判する声が出ている。
たとえば、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズのキャラクターデザインやコミカライズなどで知られる貞本義行氏が9日、こんなツイートをしたことが物議をかもしている。
〈キッタネー少女像。
天皇の写真を燃やした後、足でふみつけるムービー。
かの国のプロパガンダ風習
まるパク!
現代アートに求められる
面白さ!美しさ!
驚き!心地よさ!知的刺激性
が皆無で低俗なウンザリしかない
ドクメンタや瀬戸内芸術祭みたいに育つのを期待してたんだがなぁ…残念でかんわ〉
少女像を「キッタネー」と言い、韓国を「かの国」と表現するこの極めて露悪的なツイートには、一般ユーザーから差別性を指摘されるとともに、貞本氏のファンからも〈貞本さん、本気の発言ですか。その方向に行ってしまうのですか〉〈貞本さんからそんな言葉が出るとは!心底がっかりです〉〈長年エヴァのファンでしだが、ガッカリしました〉と失望の声が集まった。すると、貞本氏はこのように言い訳し始めた。
〈国籍差別も女性蔑視も自覚ないから、はぁそうですか? としか… 寧ろ日頃、助けて貰ってる身だから感謝しかないけどね… 社内にも友達にも後輩にも上司にまで韓国人や在日さんいるけど、皆んな基本真面目だし、いい人だから普通に意識もせず仲良く接してるしこれからもそうする〉
〈一昨年、プチョン映画祭招待されたのでノンギャラでサイン会やりました 去年は風邪でドタキャンになっちゃいましたが… 時間超過しても1人1人サインに添えてイラストまで描いて握手して アレ、差別意識あっら最初から断ってるでしょ? 違うかな?ま、もういいけどさ〉(引用者の判断で改行を省略した)
貞本氏は「私にも韓国人や在日の友達がいる」と述べているが、実はこれは「I have black friends」と呼ばれる差別主義者が自分を正当化するためによくもち出す論法だ。「私には黒人の友だちがいる」「私には在日の友だちがいる」と豪語したところで、その属性の人に対する差別の感情がないという証明にはまったくならないし、社会に差別がないことを証明するものではけっしてない。実際、ユーザーから批判が殺到した貞本氏のツイートには、ネトウヨから同調の声が多く出ている。仮に「差別意識はなかった」としても、差別を煽動していることには変わりはないのだ。
しかし、差別煽動は論外だとして、貞本氏のツイートで考えなければならないのは、前述の「キッタネー少女像」ツイートを批判され、こんな釈明をしていたことだ。
〈韓流アイドルも好きだし綺麗なモノは綺麗と正直に言ってます
造形物として魅力がなく汚い仕上げと感じたまでで生で見たら又印象違うのか?
モデルになった方がいるなら申し訳ない…
プロパガンダをアートに仕込む行為も全く否定しないけど正直
アートとしての魅力は俺には全く響かなかった〉
ようするに、「平和の少女像」は「造形物として魅力がなく汚い仕上げ」で「アートとしての魅力」がない「プロパガンダ」だから批判したのだ、と貞本氏は言いたいのだろう。だが、この貞本氏のツイートには、いくつもの陥穽が潜んでいる。いい機会なので検証してみたい。