押し付け憲法論、自衛隊スクランブル回数…詐術だらけの自民・改憲マンガ
また、自民党の“改憲マンガ”では、日本政府が作成した憲法草案、いわゆる「松本案」について〈明治憲法からほとんど変わらないという理由でマッカーサーに拒否されて〉〈結局、GHQが作った草案をもとに日本の憲法は作られた〉と書いている。
これもミスリードだ。まるでGHQが、日本国民の民意を顧みずに草案をつくって、それがそのまま日本国憲法になったかのように説明しているが、事実として、毎日新聞がスクープした松本案は当時の国民からも支持されなかった。たとえば、松本案は天皇制をほぼ明治憲法のまま維持するものだったが、当時の民間研究者による世論調査では、天皇制について〈現状のままを維持〉がわずか16%という結果が出ている(毎日新聞1946年2月4日付)。
さらに言えば、日本国憲法は、GHQ草案を日本政府が修正し、閣議決定を経て発表後、衆院総選挙が行われた後に国会で審議・修正がなされ、1946年10月7日に確定したものである。つまり、戦後初の男女普通選挙で選ばれた議会での議論を経由して制定されたのだ。その間の毎日新聞による世論調査でも、戦争放棄条項の「必要」が70%という結果が出ている(1946年5月27日付)。
ようするに、「外国による押しつけだから良くない」という“押し付け憲法論”は、当時の国民の意思を無視した改憲派のご都合主義的解釈でしかない。これは以前から自民党や安倍首相、タカ派改憲論者らが繰り返してきたことだが、性懲りもなく今回の“改憲マンガ”にも組み込んできたというわけだ。
実際、自民党の“改憲マンガ”で展開される話のほとんどは、すでに論理崩壊している改憲派のロジックの“焼き直し”と言ってよい。たとえば、この作中で祖父が、自衛隊の災害時の救出活動などを紹介しながら「さらに世界の脅威からも日本を守っている」「例えば、平成28年度(2016) 領空侵犯に備えるための緊急発進(スクランブル)の回数は1168回であり、過去最多となったんじゃ」などと語っているが、この年実際に領空侵犯されたケースはゼロで、これは安保法制のときとまったく同じ手口だ。ちょっと考えればわかるが、ただ危機感を煽る道具にしているだけで、実のところ、スクランブル発進の回数増が「自衛隊明記」の合理的理由になるわけがない。
まったく、いい加減にしてほしいが、この“改憲マンガ”のなかで最も酷いのが、「憲法に自衛隊をどう明記するの?」というくだりだ。
まず、妻が祖母に「お母さん、自衛隊を明記したら何か変わるの? 何か生活に影響は出てくるの?」と聞く。すると祖母は朗らかに「私たちの生活は特に変わらないよ」と断言。妻が不安げな表情で「急に戦争になるなんてことないよね…?」と言うと、祖母はこう続ける。
「それはないわよ。戦争放棄を定めた憲法の平和主義は絶対に変えることはないもの。自衛隊明記は自衛権行使の範囲を全く変えるものではなく、専守防衛はこれまでと同じなのよ」
おい、そんなわけないだろう。“改憲マンガ”では夫が継いで「自民党は条文イメージ(たたき台素案)を示しているよ。第九条第一項、第二項はそのままで、自衛隊を明記する新しい条文を入れる案なんだ。この第一項、第二項を残すことでこれまでの第九条の解釈は変えないことを明確にしている」と説明するが、完全に無茶苦茶としか言いようがない。