首相官邸ホームページより
「難しい状況。もう限界だと思う」──。昨日17日、日立製作所がイギリス・アングルシー島で進めてきた原発建設計画について、同社の中西宏明会長がこう述べた。事業に出資する企業集めが難航しており、計画そのものを凍結する可能性も出てきたというのだ。
「難しい状況。もう限界だと思う」──。昨日17日、日立製作所がイギリス・アングルシー島で進めてきた原発建設計画について、同社の中西宏明会長がこう述べた。事業に出資する企業集めが難航しており、計画そのものを凍結する可能性も出てきたというのだ。
原発輸出をめぐっては、政府と三菱重工業が共同で進めてきたトルコへの輸出も断念する方向で調整に入ったと伝えられたばかり。安倍政権は原発輸出をアベノミクスの成長戦略の柱とし、国内での成長が期待できなくなった原発利権の舞台を海外に移そうと原発建設を必死にセールスしてきたが、日立の計画が頓挫すれば、ベトナム、台湾、リトアニア、アメリカ、トルコ、イギリスと、これまでのすべての原発輸出計画が事実上、御破算となることになる。
あれほどの重大事故を国内で引き起こし、いまだ事故の収束もできていないにもかかわらず「原発立国」の看板を掲げて輸出事業に躍起になってきたこと自体が異常な話だったわけだが、その上、すべてがふいになるとなれば、これまで原発輸出に金と労力を注ぎ込んできた安倍首相の責任は非常に重い。
だが、安倍政権はいまだにその現実を直視しようとしない。なかでも呆れたのが昨日の菅義偉官房長官の会見だ。日立の英原発計画問題の質問を受けると、菅官房長官は「コメントは差し控えたい」としつつ、安倍政権の原発輸出政策について、こう述べたのだ。
「日本の原子力技術に対する期待の声は、各国から寄せられている」
この期に及んで「日本は各国から期待が寄せられている」って……。そもそも、福島第一原発の事故以降、安全規制の強化から世界的に建設コストは高騰しており、原発はリスクが高い上に採算に合わないものという認識が広がってきた。
そうしたなかで、安倍首相が直接、トルコ政府に売り込んだ原発新設計画では、事業費が当初の2兆円から4兆円以上にまで膨らんだことで計画は暗礁に乗り上げた。さらに、アメリカで原発計画を進めていた東芝は原発子会社の経営破綻などで約1.4兆円の巨額損失を出し、経営危機に陥った末に撤退を決めた。
にもかかわらず、安倍首相は原発輸出の旗を降ろすことなく、流れに完全に逆行。日立の英原発新設計画にかんしても、昨年末に日本政府は資金面で支援することで英政府と大筋合意し、今年に入ると政府系の日本政策投資銀行などが出資、三菱東京UFJ、三井住友、みずほ銀行の3大メガバンクなども総額1.5兆円規模の融資をおこない、そのメガバンクの融資全額を政府が債務保証するという報道がなされた。
つまり、東芝が国策として進めていたアメリカの原発事業で巨額の損失を出したことが日本経済を揺るがす大問題に発展したというのに、安倍政権は「儲からない」原発輸出に国民の血税を投入してバックアップする方針をまったく変えなかったのだ。そして、結局はそれも骨折り損に終わろうとしているのである。
こうした日本政府の動きに危機感を募らせていたのは、イギリスの住民たちだ。イギリスの現地住民団体などは、今年、日本政府に公的資金を使わないことを求める署名を経産省などに提出。署名の呼びかけ団体側は「放射性廃棄物問題の解決策がないなか、進めるのは無責任。福島事故を経験した日本人にも声をあげてほしい」と訴えていた(朝日新聞5月29日付)。