ブッシュ大統領を批判したことで、干されたカントリーミュージシャン
テイラーが政治的な主張、トランプ批判を行うことに及び腰だったのには、彼女がカントリー畑出身のミュージシャンであるという背景が強く関係しているだろう(2014年リリースのアルバム『1989』以降はカントリー色は薄いが)。
カントリー畑のミュージシャンが政治的な主張、特に共和党の政策に批判的な態度をとることには非常に大きなリスクが伴う。実際、そうした発言により猛反発を受け、キャリアを絶たれそうになったのがディクシー・チックスだ。
ディクシー・チックスはカントリー界のみならず、アメリカのポップミュージック界全体を見てもスターグループのひとつで、2007年のグラミー賞では、「ノット・レディ・トゥ・メイク・ナイス」が最優秀楽曲賞と最優秀レコード賞を、『テイキング・ザ・ロング・ウェイ』が最優秀アルバム賞を受賞するという、主要3部門を独占する快挙を成し遂げているが、そこにいたるまでの間に、ブッシュ大統領批判を行ったことが全米的な大問題となっている。
きっかけは2003年3月、ロンドンでのライブのMCでナタリー・メインズが「私たちはアメリカ大統領がテキサス出身なのを恥ずかしく思っている」と発言したことだった。ちなみに、ディクシー・チックスのメンバーはテキサス出身である。
このライブのレポート記事が現地の新聞に掲載されると、すぐさま大問題となる。カントリー系のラジオ局はディクシー・チックスの楽曲をオンエアーリストから外した。アメリカの音楽業界におけるラジオの立ち位置は日本とは比べ物にならないほど大きいので、この措置は非常に大きい打撃となる。
また、怒ったのはカントリー系メディアだけでなくファンも同様で、ディクシー・チックスのCDをトラクターで粉砕するというイベントも行われ、その様子も広く報道された。
この時期、イラク戦争反対を訴えて、グリーン・デイ、パール・ジャム、R.E.M.、ブルース・スプリングスティーンなど、多くのミュージシャンが反ブッシュのメッセージを掲げて活動していたが、このような反応が出たのはディクシー・チックスだけである。