陰謀論をふりまきコーチを非難する一方、アベ友優遇疑惑には一切触れず
番組は、サンドラ氏のその態度が、威丈高で威圧的であり、礼を失しているかのように見せていたが、彼女の言葉は1から10までその通りだろう。なぜ、下町ボブスレー製ではなく、BTC社製のソリが選ばれるのかという理由を端的に説明している。
このような、「サンドラコーチ黒幕論」は、下町ボブスレーの技術力を否定したくない「日本スゴイ」論者がもち出すトンデモ陰謀論であることは、とうに知れ渡っており、番組を見た視聴者からも失笑の声が漏れた。
しかも、下町ボブスレーに関して、『ガイアの夜明け』ではいっさい触れられなかった重要なことがある。それは、ほかでもない安倍首相と下町ボブスレーの蜜月関係だ。そして、補助金の投入など安倍首相との関係から下町ボブスレーが優遇されたのではないかという疑惑だ。
下町ボブスレーにまつわる物語は、喧伝されているような「町工場の人たちが手弁当で個々の力を結集し世界を目指した」といった牧歌的なものではまったくない。安倍政権が異常なまでに肩入れをし、全面的にバックアップしたものだ。
大田区の企業経営者らが産業振興目的でこのプロジェクトを立ち上げたのは、2011年。当時はほとんどスポンサーも付いておらず、そこまで大きな話題になっていなかった。ところが、2013年2月、安倍首相が政権に返り咲いて最初の国会の施政方針演説で、いきなりこの下町ボブスレーのことを紹介する。
「小さな町工場からフェラーリやBMWに果敢に挑戦している皆さんがいます。自動車ではありません。東京都大田区の中小企業を経営する細貝さんは仲間とともにボブスレー競技用ソリの国産化プロジェクトを立ち上げました。世界最速のマシンをつくりたい。30社を超える町工場がこれまで培ってきたものづくりの力を結集して、来年のソチ五輪を目指し、世界に挑んでいます。高い技術と意欲をもつ中小企業、小規模事業者の挑戦を応援します」
すると、それまではひかりTVくらいしかいなかった大手スポンサーに、ANA、伊藤忠商事、東芝など、名だたる企業が名乗りをあげ、NHKでのドラマ化も決定。マスコミの取材が殺到するようになる。
さらに、2013年6月30日、自民党が開いた中小企業小規模事業者政策緊急フォーラムなる会合には、下町ボブスレーのソリの現物が会場に運び込まれ、安倍首相が乗り込むパフォーマンスを披露。この様子も多くのメディアに紹介され、右派系の「教育出版」の小学校道徳教科書にはその写真が掲載された。
下町ボブスレーにとっては大宣伝になったわけだが、安倍政権は宣伝に協力しただけではない。施政方針演説の数カ月後の同年6月、政府は、このプロジェクトに直接、資金を投入することを決めた。経済産業省が下町ボブスレーを「JAPANブランド育成支援事業」に採択し、以後3年間にわたって、上限2000万円の補助金を交付し続けたのだ。