愛国を謳いながら対米従属という右派の矛盾を体現する安倍政治
記事の最後の章では、安倍政権の国際政治が、ナショナリストでかつ対米従属派であるという「右派の両義性」の象徴であると断じ、安倍の歴史修正主義も相まって、東アジア情勢にも悪影響を与えているとする。そのうえで、再度、安倍の悲願である9条改憲についてこう述べている。
〈日本が独自の権限を主張し、軍隊の法的地位を付与し、国際安全保障協力を促進する法的枠組みを有することを妨げるものは何もない。しかし、帝国日本軍の残虐行為(1937年の南京虐殺や「慰安婦」など)に関する立場を争う人物が憲法改正のタクトを振るっていることは、日本の世論に明らかに不安感を与えているのである。〉
どうだろうか。ル・モンドといえば、これまでも戦後70年の安倍談話について、「安倍総理大臣個人として、過去の侵略や植民地支配に対する謝罪を一切行っていない」とはっきり指摘。サミットのときに安倍首相が“世界経済の現状はリーマンショック前の状況とそっくりだ”という趣旨の捏造発言を行なった際も、「安倍晋三の無根拠なお騒がせ発言がG7を仰天させた」と銘打ち、しっかり批判していた。
ル・モンドだけではない。同じく仏高級週刊誌「ロブス」や英経済紙「エコノミスト」は、日本のマスコミが安倍政権と日本会議の関係に注目する前から〈経済的改革者のイメージとは程遠く、日本の総理大臣は大日本帝国への回帰を目指す極右、歴史捏造主義団体と一心同体である〉(ロブス)、〈(日本会議は)憲法改正に必要な国民投票の実施を目指し、100万人の署名を集めている。憲法9条を撤廃し、伝統的な家族観を大事にするような憲法を求めている。2012年に作成された自民党改憲草案は、こうした日本会議の主張をいくつも採用している〉(エコノミスト)などと報じていた。他にも、安倍首相がオバマの広島訪問を政治利用したときも、米紙「ニューヨーク・タイムズ」や英紙「ガーディアン」などは安倍政権に批判的に報じていた。
一方の日本のマスコミはどうだろう。東京新聞など一部を除いては、安倍首相を名指しして歴史修正主義者と批判することもほとんどない。今回の選挙でも、「極右集会」「おとなの塚本幼稚園」と評された安倍首相の街宣の実態をまともに報じるメディアもほとんどなかった。海外メディアから安倍政権が「極右」「ナショナリスト」「歴史修正主義」などとたびたび批判されていることについても、ベタ記事で触れるだけだったり、わざわざ政権を擁護する文化人や学者のコメントを入れるなど、あからさまに“忖度”している。しかもこのままでは、衆院選に大勝した安倍首相が、憲法改正に動き出すなかで、今後、さらに国内マスコミが萎縮していくのは必至だろう。
しかし海外メディアによる安倍政権批判の多くは、ネトウヨや右派が喧伝するような陰謀論的日本叩きなどではなく、今回のル・モンド紙がそうであるように、いずれもきわめて冷静かつ客観的な指摘だ。国内メディアにもなんとか気骨ある報道をのぞみたいのだが……。
(編集部)
最終更新:2017.10.25 09:10