ところが、日米韓の政府の一部や保守メディアはそうした強硬策への反省はまったくなく、それどころか前述したような「先制攻撃論」を叫び始めている。これがいかに非現実的な対応策であるかは、少し考えただけでわかる。
たとえば、米軍が前述のグアム・アンダーセン空軍基地から超音速戦略爆撃機B1Bを出撃させ、北朝鮮の核ミサイル基地を空爆したとしよう。
金正恩はどう出るか。報復として直ちに在韓米軍基地、在日米軍基地へのミサイル攻撃を指示するのは確実だろう。日本では、在日米軍施設の約74%が集中する沖縄などが攻撃目標とされる。
日本はミサイル防衛システムでこれを迎撃することになるが、本当に撃ち落とせるかどうかは疑問だ。たとえば、北朝鮮が8月3日、弾道ミサイル2発を秋田沖に落下させた際、日本政府が発表したのは1時間以上経った後。破壊措置命令も出されなかった。9月5日、3発が北海道沖に落下させた際も、海上保安庁から船舶へ情報が出されたのは19分後で、落下した後だった。1兆5千億円以上の予算をつぎ込んできたミサイル防衛だが、まともに機能していないのである。
しかも、米軍は核基地空爆と同時にステルス機を使って平壌に迫り、さらに韓国軍の地上部隊が38度線を超えて平壌に侵攻、金正恩を抹殺する計画もあるというが、こんなことを強行すれば、泥沼状態になるのは確実だ。
軍事力の差を考えれば、平壌は数日で制圧できるかもしれないが、両軍ともに多数の犠牲者が出て、さらに大量の難民流出が起きることになるだろう。しかも、首都を制圧しても、金体制の残党によるテロが頻発する可能性もある。
事実、過去アメリカのこうした軍事介入はことごとく失敗している。アフガニスタンではタリバン政権転覆に成功したが、その後、同国内はバラバラになり、再びタリバン勢力が盛り返し、米軍は撤退を余儀なくされた。オサマ・ビンラディンを暗殺しても、テロはむしろ増えている。甚だしいのがイラクである。アメリカの軍事介入によって、「イスラム国」という手のつけられないテロリスト集団を生んでしまった。
北朝鮮でも同様に、軍事的威圧作戦は問題解決にならないばかりか、ますます制御不能の“化け物”を成長させてしまう危険すらある。
まさに、悪夢のシナリオというしかないが、さらに最悪なのが、安倍政権がこの状況を警戒しているどころか、むしろ積極的に政治利用しようと手ぐすねをひいていることだ。