「国を売るな!」と批判していたのに、いまではなぜか「愛国者」という評価……。挙げ句、慎太郎はこんなことまで言っている。
「角さんが総理大臣をやっていた昭和49年の参院選。あのとき自民党の公認料は1人3千万円ですよ。選挙で使ったお金は300億円です。だから、ロッキード事件の5億円は角さんにしたら選挙費用の中で、はした金」(産経新聞16年1月5日付インタビューより)
5億円ははした金って、金権政治批判はどこにいったの?と誰もが疑問に思うだろう。まあ、そもそも慎太郎も知事時代には四男のプロジェクトに億単位の税金を注ぎ込むなど、金銭疑惑まみれであり、金権批判などちゃんちゃら可笑しいのだが、さらに慎太郎の『天才』が気持ち悪いのは、帯に「衝撃の霊言!」などと謳っていることだ。事実、そのキャッチコピーは正しく、中身も大川隆法の霊言本ばりの内容で、本の最後には「すべては筆者によるフィクションであることをお断りしておきます」などと記されている。
ちなみに、今回、慎太郎が『天才』を執筆することになったきっかけは、昨年、『石原慎太郎の社会現象学─亀裂の弁証法』(東信堂)を発表した早稲田大学教授の森元孝氏の一言だという。森氏の本を読んだ慎太郎は「政治家であったがために不当に埋没させられてきた私の文学の救済となる労作をものにしてくれた」と大喜びし、森氏と御礼の会食したのだが、そこで「貴方は実は田中角栄という人物が好きではないのですか」「彼のことを一人称で書いたらどうですか」と言われた。この言葉に慎太郎は〈強い啓示を受けた気がした〉というのだ。
強い啓示を受けて、書きはじめたのが霊言小説って……。もう「とほほ」と言うほかないが、最近、慎太郎はテレビに出るたびに「身体が昔みたいに自由がきかないとね、イライラするんですよ」「つまらないね、なにもかも」「死ぬことばっかり考えているね」と語っていた。たぶん、政界引退後、そうやって老後の生活に鬱々としていたところに角栄の一人称小説という話題性抜群の企画を提案され、過去との整合性も取らずに慎太郎は嬉々として乗っかった。そして、中居の質問によって“もっとも痛いところ”をつかれたからこそ、いまだダラダラと怒りつづけている……。そんなふうにしか見えないのだ。
まあ、このような小説がまんまとヒットしてしまう世の中も世の中だが、“暴走老人”から謂れない中傷を受けてしまった中居くんは、つくづく気の毒である。
(大方 草)
最終更新:2016.04.16 09:37