一方、〈中毒性の低い擬似不倫体験〉はどうだろう。すぐに思いつくのが、最近ではサイトハッキングによる登録者の個人情報流出で話題になった、不倫専門SNS「アシュレイ・マディソン」だが、こちらも〈答えはもちろん「ノー」〉なのだという。
〈確かに不倫相手は見つかるかもしれないが、一対一の個人間のやりとりだけではなにかあった時に歯止めが効かなくなり、日常に戻ってこられなくなる可能性がある。身元の不確かな見知らぬ他人と性的関係を持つことで、盗撮や窃盗、暴力や美人局などの被害に遭うリスクも上がる〉
「性風俗」も〈不倫ワクチンにはなりえない〉。〈「プロの女性」による金銭を介した「サービス」である性風俗と、「素人の一般女性」との金銭を伴わない「個人的な恋愛・肉体関係」である不倫は、全く別物〉だというが、それは不倫経験者、不倫願望のある人間ならば誰もが同感というだろう。
しかし、同書には、実際に擬似不倫の実践者が何人か登場する。たとえば、〈お互いの内面に深入りせず、婚外セックスのみを楽しむ〉高齢男性、また、既婚者のセフレ8人を持つ30代独身女性は「己を持たざる者、セフレを持つべからず」との名言を口にしている。
つまり、〈自立したオトナ〉ならば、この〈中毒性の低い擬似不倫体験〉は可能ということらしい。さらに、同書は、不倫ワクチンになりうる可能性のあるものとして、「交際クラブ」、「オープンマリッジ」(お互い合意の上で自由に愛人を作ることができる結婚のスタイル)、「スワッピング」、「ポリアモリー」(責任を持って、同時に複数の相手と性的関係を含む恋愛関係を結ぶこと)などもあげている。
もちろん、こうした行為に参加するのは、かなりハードルが高いし、それを楽しめるかどうかも個人の資質が大きく関係する。
だが、坂爪氏はそれでも〈不倫ワクチンとしてのポジティブ婚外セックスを社会的に条件付きで受容した上で、その安全性を向上させ、性感染症や家庭崩壊などの悲劇の発生率を少しでも低めるべき〉だと主張する。
ただし、坂爪氏は現実的な対処策として、婚外セックス、セフレを推奨しながらも、一方でこんなことも書いている。
〈結婚はあなたの悩みを解決してくれる万能薬ではないし、配偶者もあなたを全て理解してくれる救世主ではない。そして、婚外恋愛や婚外セックスにも救いはない。何をしようが、誰と一緒に暮らそうが、生きていく上で避けて通れない苦痛はある。(中略)「どこにも」救いはないと理解することこそが、救いに至る唯一の道なのだ〉
本書で最も響くこの言葉を、筆者の周りにいる不倫をする人たちにも教えてあげたい。たぶん聞く耳持たないだろうが──。
(羽屋川ふみ)
最終更新:2015.10.03 12:13