金平氏は現在発売中の雑誌「創」(創出版)での鼎談で、今年6月23日の慰霊の日に沖縄全戦没者追悼式で安倍首相にあがったヤジを“NHK問題”の一例に挙げている。
あのヤジを現場で聞いた金平氏は、「これはニュースだ」と思ったという。「あそこまで「帰れ」という声が沸き上がることは(これまで)なかった」からだ。事実、現場ではAFP(フランス通信社)の記者は「これは大変なことだ」と話し、「AP通信とか、AFPとかBBC(英国放送協会)はこのことをきちんと報じている」。しかし、NHKはヤジが飛ばされた模様を流さなかった。ローカル放送では「ちょこっと流れ」たが、全国放送ではすべてカットされたのだ。
「安倍首相に同行してきた政治部記者たちがいて、その原稿・編集には触らせない構造があるんです」
「つまり、NHKにとってはあれは使ってはいけない雑音であって、そんなことに耳を傾ける必要はないと思っていたんでしょう」(金平氏)
ただ、金平氏はNHKだけを問題視しているわけではない。金平氏はすべてのメディアを俎上にあげ、「安倍政権がメディアに対して介入とか抑圧を強めているのは確かだけど、その話をする時に用いられる、メディアの側が被害者で政権側が加害者だというような図式自体がもう違うんじゃないかと思い始めています」と語る。
「(メディアの)組織とか集団の内側に、今の政権に対してすり寄っていく人がいるというふうに見えるのです」
「安倍首相のように、指導者としてふさわしくないことが明らかな人物がこれほど強い力を発揮している状況がまずあって、それに対して何も物が言えない状況が進んでいくのはなぜかと言うと、何よりそれを支えている人たちがいるからです。強い者に対して進んで隷属しようとするのは、そこに従うことにうま味があるという構造があるからなんですね」
たとえば、あの自民党文化芸術懇話会で飛び出した「マスコミを懲らしめる」発言の問題にしても、金平氏は「スポンサーの締め上げみたいな話も出てきたため反応せざるを得なかった」と、民放による報道の消極的姿勢を明かす。民放にとっては経営基盤にかかわる死活問題だったから触れるしかなかった、ということは、裏を返せば、そうでなければ取り上げることはなかったということだろう。NHKに限らず“隷属化”が進んでいるのだ。
「テレ朝の中にもひどいのはいるし、TBSの中にも、フジにも日テレにもひどいのはいるんです。共同通信だって朝日新聞だってそうなんです。あのメディアはこうで、このメディアはこうだといった組織ごとの色分けは、もうすでに意味をなさなくなっている気がします」(金平氏)
「問題は相手じゃなくて、自分たち」──そう話す金平氏に同意しつつ、ジャーナリストの青木理氏は「僕が気になるのは読売新聞の動向」と具体例を出す。