小夜子は同様の行為を繰り返していた。耕造の前に結婚していた男性はぜんそく発作のために車が崖から転落し死亡していた。さらに
「平成15年以降、名城小夜子、黒澤小夜子、津村小夜子、武内小夜子と名字が変わったが、夫であった名城善彦は和歌山の白浜海岸で突堤から転落して溺死、津村泰治は大阪市大正区の特別養護老人ホームで病死、武内宗治郎は徳島のつるぎ町で事故死(車で転落)していた」
現実の千佐子容疑者は青酸化合物で夫を殺害したと疑われるなど、その手法は違うし、結婚相談所所長の関与情報も出てきていない。
だが、短期間で次々と亡くなる交際相手や夫、そしてその財産を巻き上げる手法は、まるで今回の事件をなぞったような展開だ。その前の夫や恋人が交通事故で死亡しているところも共通している。
そして最大の類似点が、公正証書の存在である。作品中、小夜子は公正証書という最大の武器を使って莫大な遺産を手にしていくが、一方、現実の事件でも、千佐子容疑者は複数の交際相手や結婚相手から土地や預金等を贈与する公正証書を求めたとされている。
千佐子容疑者は逮捕前、複数のメディアの取材に応じているが、時事通信社の取材では、結婚・交際相手に公正証書を書かせていたことに切り込んだ記者の質問に、このように語っている。
「男性が私と婚姻届を出さないなら『せめて』と言ってくれた。それ(公正証書)は女性に対する唯一の信頼の証しですよ」
小説では、こうした犯罪が暴かれにくい構造に触れ、こう記されている。
「小夜子は入籍、転籍を繰り返している」
「戸籍は転籍するたび、それ以前の結婚についての記載は抹消される。こうして、いちいち本籍地の役所から謄本や抄本をとって履歴を辿らんことには、小夜子が何回、入籍、転籍したか分からんのや」
まさに現実で進行しつつある事件とそっくり──。あまりのそっくりぶりに、著者の黒川は事件のことを知っていたのではないか、という見方まで流布されている。京都連続不審死事件については、千佐子容疑者の前夫が死亡した昨年の12月以降、警察が捜査に動き、関西のマスコミもマークを続けていた。大阪在住で、これまでも「大阪府警シリーズ」などの作品を手がけるなど、警察情報に精通している黒川がなんらかの情報をつかみ、小説にしたのではないか、と。