『誰も書けなかった日本の黒幕』が暴いた内容を紹介する前に、本サイトでもたびたび取り上げてきたが、あらためて簡単に元宿氏の経歴を紹介しておこう。
元宿氏は1968年に自民党職員となり、その後は経理畑を歩いてきた。1989年には毎日新聞が財界と自民党の金の流れについて特集した際、当時、経理局副部長だった元宿氏について〈政局が緊迫したり選挙となると、現金の詰まった紙袋を持って四階の幹事長室に入るのが、しばしば目撃された〉と言及しているが、このころから元宿氏は「自民党の金庫番」として暗躍。さらに、元宿氏は自民党の企業・団体献金の受け入れ窓口である「国民政治協会」を取り仕切っていたことから、「政治献金の裏を知り尽くしている男」「陰の幹事長」とまで呼ばれてきた。
2000年には党職員トップである事務局長に就任した元宿氏だが、2005年には日本歯科医師連盟による献金事件で元宿氏が橋渡し役を担っていたことが裁判で発覚。それでも自民党は2006年に元宿氏を定年延長というかたちで新設された事務総長に就任させたのだが、2009年に民主党が政権を奪取し自民党が下野すると、2010年7月末に元宿氏は自民党を退職。しかし、2012年に安倍晋三氏が自民党総裁に返り咲き、政権を奪還すると、安倍氏は元宿氏を呼び戻し、再び事務総長にゴリ押しして就任させたのだ。
そして、安倍政権下の2015年秋、Twitter(現・X)に現れたのが、ネトウヨ匿名アカウントの「Dappi」だった。ご存知のとおり、「Dappi」は野党やリベラル系メディア叩きとあからさまな自民党擁護をおこない、フェイク情報を大量に投稿。それを自民党議員やネトウヨが拡散し、フェイクがSNS上にばらまかれた例は枚挙にいとまがない。
だが、「Dappi」の投稿で名誉を傷つけられたとして立憲民主党の小西洋之、杉尾秀哉参院議員が発信者情報の開示請求をおこなった結果、発信元は東京にあるウェブ制作会社のワンズクエスト社であることが判明。さらに、しんぶん赤旗の報道により、同社の社長が元宿氏の親族であることが発覚したのだ。
小西・杉尾両議員がワンズクエスト社を提訴した裁判では、東京地裁が2023年10月、会社側に計220万円の支払いと問題の投稿の削除を命じたが、この判決で東京地裁は「投稿は会社の業務として、社長の指示の下、ワンズクエスト社の従業員あるいは社長によって行われた」と認定。さらに、投稿者についても「社長の可能性は相応にある」とした。つまり、元宿氏が自身の親族の人物に世論工作のためにアカウントを運営させたのではないか、と見られているのだ。
元宿氏はこのほかにも、2019年の参院選で起こった河井案里・克行夫妻による選挙買収事件の裁判でも関与が取り沙汰されるなど、その存在は安倍政権でもかなり大きいものであったとみられている。だが、安倍・菅政権ではあくまで裏方に徹しており、総理と元宿氏がおおっぴらに会うことは少なかった。
ところが、『誰も書けなかった日本の黒幕』によると、岸田政権になってから、その元宿氏が前面に出るようになり、岸田首相との面談や会食が頻繁に確認されるようになったというのだ。