首相官邸HPより
ついに総務省が「行政文書」だと認めた、放送法の解釈変更をめぐる官邸側と総務省側のやりとりなどを記した内部文書問題。ところが、当時総務相だった高市早苗・経済安保担当相はこの期に及んでも「捏造だ」という主張を繰り返している。
もはやこれは国家の危機と呼ぶほかない。官僚が作成した行政文書を大臣が「捏造」だと言い張ることは、この国の行政文書の信用・信頼性を当の大臣が根底から毀損しているからだ。そもそも文書が「捏造」なのだというのであれば、文書捏造の責任を負うのは当時の総務大臣で責任者である高市大臣にほかならないだろう。
しかし、いま大きな問題にしなければならないのは、高市大臣の悪あがきではない。もちろん、「怪文書」「捏造」と啖呵を切ったことの責任を追及することは重要だが、本来、問題にすべきは、この内部文書に示されているように、安倍政権が政権批判をおこなう“目障りな番組”を潰すために法を捻じ曲げさせていた、という民主主義の破壊行為のほうだろう。
しかも重要なのは、この放送法の解釈変更へといたる過程と軌を一にして安倍政権による報道圧力は苛烈さを増し、さらに2015年の法解釈の変更と2016年の高市総務相による「停波」発言によって、安倍政権によるテレビメディア支配は行き着くところまで行ってしまったことだ。
内部文書がつくられた前後にあたる2014年から2016年にかけて、安倍政権がいかに放送への介入や報道圧力を強め、テレビによる報道を歪めさせていったのか。この重要な事実をあらためて振り返っていこう。
まず、大前提として触れておかなくてはならないのは、報道圧力は第二次安倍政権からはじまったものではなく、安倍晋三という人物がそもそも報道の自由の重要性についてまったく理解しておらず、平然と放送に介入・圧力をかけてきたということだ。
それを象徴するのが、2001年に起こったNHK番組改変問題だろう。これは日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷を取り上げたETV特集『問われる戦時性暴力』に対し、内閣官房副長官だった安倍氏と自民党の中川昭一衆院議員(故人)のふたりが放送直前に政治的な圧力をかけ、その結果、番組が改変されたという事件だが、このとき安倍氏は「勘ぐれ、お前」という直接的ではない脅し文句で圧力をかけてきたことを、当時面会したNHK放送総局長が証言している。
当然、自身が首相となった第一次政権では、虚偽報道などを理由とした放送法に基づく番組内容への「行政指導」を乱発。メディア論が専門の砂川浩慶・立教大学教授の『安倍官邸とテレビ』(集英社新書)によると、1985年から2015年までの30年間で行政指導がおこなわれた件数は36件だったが、そのうち7件は第一次安倍政権(2006年9月〜2007年9月)のたった約1年のあいだにおこなわれたものだった(ちなみに民主党政権下では一件も行政指導はおこなわれていない)。7件の行政指導がおこなわれた際の総務相は、菅義偉だ。
日本テレビのディレクターとしてメディアの最前線に身を置いていた水島宏明・上智大学教授は、第一次安倍政権下の2007年ごろ、ある民放キー局の経営者から「やつらは本当にやばい」「一線を越えて手を突っ込んでくる」と聞かされたという(「Journalism」2015年10月号/朝日新聞出版)。この「やつら」とは無論、安倍氏と菅氏のことだ。「やばいやつら」が政権に返り咲き、首相と官房長官としてタッグを組んだのが、第二次安倍政権だったのである。