もっとも、今回の「週刊ダイヤモンド」への圧力は、峯村氏個人だけにその責任を負わせるような話ではない。峯村氏を動かしたのは安倍元首相であり、最大の問題は、その言論介入体質にある。
しかも、この介入事件にはいまも、大きな謎が残っている。それは、なぜ安倍元首相は自分のインタビュー記事をめぐって、別の新聞社の記者である峯村氏にわざわざ圧力をかけさせたのか、という点だ。
ゲラをチェックしたり、発言部分の修正を要求するなら、安倍元首相がやればいいだけだろう。峯村氏がnoteに投稿した反論文によると、安倍氏から、「ニュークリアシェアリング(核兵器の共有)についてのインタビューを受けたのだが、酷い事実誤認に基づく質問があり、誤報になることを心配している」「明日朝から海外出張するので、ニュークリアシェアリングの部分のファクトチェックをしてもらえるとありがたい」と言われた、ということだが、ファクトチェックをするなら、安倍事務所が「週刊ダイヤモンド」編集部からゲラを入手し、峯村氏に渡してチェックしてもらえば済む話だ(新聞記者が特定の政治家の代わりに記事チェックをするというのは、もちろん大問題だが)。
ところが、安倍事務所は峯村氏に直接、「週刊ダイヤモンド」との交渉を依頼。峯村氏は自ら「週刊ダイヤモンド」のA記者(副編集長)に電話し、「私が全ての顧問を引き受けている」「とりあえず、ゲラ(誌面)を見せてください」「ゴーサインは私が決める」(朝日新聞社の調査結果より)などと迫った。
そんなところから、政治部記者の間では、「安倍元首相サイドがやろうとしたのはファクトチェックではなく、実際にあったやりとりを削除しようとしたのではないか。ところが、一旦、編集部に断られたため、『ダイヤモンド』にパイプのある峯村氏に頼んだのだろう」という推測が広がっている。
周知のように、この「核共有」論は、安倍氏がウクライナ問題に乗じてぶちあげたのだが、発言後、各方面から批判が殺到。「ウクライナ危機では逆に核抑止が有効でないことが露わになったのに何を言っているのか」という原則論はもちろん、保守的な外交や軍事専門家からも「いまさらやってもリスクが高まるだけで効果はない」「核共有は自国にオペレーションの権利がないことをわかっているのか」と一蹴され、自民党内でも支持が広がるどころかほとんど相手にされない状態になっていた。
ところが、安倍元首相は今回のインタビューでも、明らかな核シェアリングに対する無知をさらけだすような主張をしてしまい、後でそのことに気づいた、それで必死になって削除させようとしたのではないか、というのだ。
実際、峯村氏のnote反論文によれは、「週刊ダイヤモンド」は〈その後安倍氏側と事実関係の確認し、誤認を正したうえ、3月26日付けの同誌に無事に掲載されました〉としている。
つまり、最終的には「週刊ダイヤモンド」側が部分的に修正に応じたということらしいのだが、しかし、「週刊ダイヤモンド」の安倍氏インタビュー記事をみると、安倍氏がここを削除修正要求したのではないかと思えるような問題発言が残っている。