いずれにしても、日本政府によるアフガニスタン退避作戦がたった一人だけという大失敗に終わった原因が、日本政府の「大事なのは自分たち日本人の高級官僚の安全だけ、民間人やアフガン人なんてどうでもいい」という棄民姿勢にあることは明らかだ。
これはまさに、主権国家としての義務の放棄であり、厳しく糾弾されるべきだが、驚いたのは、マスコミがこれをほとんど批判していないことだ。
それどころか、「アフガンから日本人退避 空自輸送機でパキスタンへ」(共同通信)「“日本人がアフガン退避した”政府発表 残る日本人のため自衛隊待機」(FNN)などと、まるで自衛隊の努力で、日本の民間人が大勢退避したかのような見出しを打っていた。
また、退避が一人だったこと報じたメディアでも、NHKのように「日本人1人が自衛隊機でアフガニスタンからパキスタンに退避」と淡々と事実を伝えるだけで、批判的なニュアンスはゼロ。
結局、日本人一人しか助けられず、アフガン人スタッフを置き去りにしてきたことを批判しているのは、朝日、毎日などのリベラルメディアだけだった。
さらにひどいのが、ネットの反応だ。
8月27日、立憲民主党の福山哲郎幹事長がTwitterで、〈派遣された自衛隊員のご尽力に敬意を表します。しかし、なぜわずか1人なのですか。退避を希望する日本人やアフガン人のスタッフなど500人程度の想定だったのではないですか。ロシアも韓国もEUも数百人規模で退避しています。〉と、政府の姿勢を批判すると、政権応援団やネトウヨたちがこんな話のすり替えで、福山攻撃と政府擁護を展開したのだ。
〈そこまで言うなら福山センセが現地に行って500人助けて来いや〉
〈立憲民主党は自衛隊が現地で邦人救出できる法案を作ってくれるってことですね。
当然、武器使用も可で、捜索も出来るようにしますよね?よろしくお願いします。〉
〈よく言うなあ…自衛隊が活発に動くのを妨害してる勢力が、この言い草 自衛隊を国防軍と正式に認め、軍隊として動けるように、国会で採決決定して下さいよ!〉
〈法改正を邪魔しておいて、安全な場所からマウントを取らないで頂きたい。〉
〈福山先生のおっしゃる通り 邦人救出でも明らかなように国家公務員の自衛隊では限界がありすぎですね。憲法改正して自衛隊も軍隊になってもらわないといけませんね。〉
〈ぜひ、このような事態の際に、退避を希望する多くの方を救うことのできる能力を自衛隊に備えていただかなくてはいけませんよね!〉
ようするに、憲法9条や自衛隊法の限界で、邦人退避ができなかったというのだが、冒頭でも指摘したように、退避失敗と憲法は関係がない。韓国がそうしたように、外務省や大使館員が責任感をもって早くから動いていれば、とっくに全員を退避させることができたのではないか。にもかかわらず、そのことを批判せずに、改憲に結びつけるとは……。
いずれにしても、今回のアフガン退避をめぐる失態は、ふだん「国のために命を捧げろ」だの「国家と国民を守ルために改憲を!」とわめきたてている連中が、国民を守る気などひとつもないことを、証明したと言える。いや、それはこの間のコロナ対策でとっくに証明されていたことではあるが……。
(編集部)
最終更新:2021.08.31 09:46