周知のように、森友問題は朝日新聞のスクープだが他の新聞・テレビ・週刊誌も一斉に後追い報道していたし、加計事件については、一番報道が早かったのは、『週刊現代』、続いてリテラである。『週刊文春』もスクープを連発していた。それをすべて朝日の仕掛けた策謀として一元化してしまうとは──。これだけでも、その粗雑な陰謀論に唖然とするが、そのあともひどい。いったいなにを根拠に、と読み進めても、具体的な根拠はほとんどなく、陰謀論や妄想としか思えない分析をただただ書き連ねているだけなのだ。
たとえば、その典型が加計学園問題に火をつけた文科省の「官邸の最高レベルが言っていること」文書報道をめぐる記述だ。この文書は朝日新聞が5月17日朝刊でスクープするのだが、実はその前夜、16日午後11時に、NHKが『ニュースチェック11』で類似の文書を肝心の「官邸の最高レベル」という記述を黒塗りする形で報道していた。すると、小川氏はその一事をもって、こんな推理をまくしたてるのである。
〈ある人物が朝日新聞とNHKの人間と一堂に会し、相談の結果、NHKが文書Aを夜のニュースで、朝日新聞が翌朝文書群Bを報道することを共謀したとみる他ないのではあるまいか。〉
そのほかの記述も同様だ。〈単純な事件報道ではなく、最初から情報操作しなければ「事件」にならない案件〉という“論点先取”や、〈上層部から使嗾があった上で現場が前川に取材しているのであれば、スクープの判断が同時に可能になるだろう〉という“後件肯定の誤謬”、〈朝日新聞が明確に司令塔の役割を演じ、全てを手の内に入れながら、確信をもって誤報、虚報の山を築き続けてゆく〉とか〈加計問題は比喩的な意味でなく実際に朝日新聞演出、前川喜平独演による創作劇だったのである〉といった記述については、もはや妄想のレベルである。
いずれにしても、『徹底検証「森友・加計事件」』は、安倍応援団が森友加計疑惑にフタをしようと、朝日新聞をスケープゴートにしたとしか思えないシロモノだった。
そのためか、朝日新聞の対応も今回はいつになく強硬だった。同書に対して、朝日新聞はまず、小川氏と飛鳥新社に謝罪と訂正を求める抗議文を送付。しかし、小川氏および飛鳥新社が謝罪訂正に応じなかったため、朝日新聞は同年12月、具体的な記述や「朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪」というタイトル部分、冒頭の「無双の情報ギャング 朝日新聞に敬意を込めて捧ぐ」という献辞など、15箇所を「事実に基づかない誹謗中傷」「虚偽の事実摘示に基づく名誉毀損」にあたるとして、小川氏、飛鳥新社に朝日新聞など全国紙6紙への謝罪広告の掲載、5000万円の損害補償を求めて訴えたのである。
一方、小川氏らは裁判で、こうした記述についていまさら、事実の摘示でなく論評や分析にすぎないと主張。朝日新聞が「疑惑を創作」「ねつ造」したという部分についても、裁判では“虚偽であることを知りながら、敢えて報道したとの内容を読み取ることはできない”といった反論をしていた。
しかし、裁判所はそうした主張をすべて一蹴し、前述したように15箇所のうち14箇所について、「真実性は認められず」「名誉毀損が成立する」と判断したのである。