また、不安を呼んでいるのが、解除のタイミングの問題だ。「たった1週間前倒しして意味があるのか」という声もあがっているが、重要なのは、これから行楽や歓送迎会のシーズンに入るということ。昨年の3〜4月には歓送迎会などでクラスターが発生して感染者が急増しているからだ。実際、宣言解除によって感染対策がおろそかになる可能性を政府分科会も指摘し、「リバウンド防止策」を提言。卒業旅行や謝恩会、歓送迎会を控えることや、花見は宴会なしでと呼びかけている。今回、都市部で宣言解除をおこなうにあたって、生中継される記者会見で、菅首相自ら国民に対し、こうした呼びかけをおこなうことが重要なのは言うまでもない。
このほかにも、縮小されてきた積極的疫学調査の今後やワクチン接種の時期や見通し、第4波に備えるための病床確保、迫っている中小企業に対する融資の返済期限、さらなる支援策など、菅首相が国民に向けて説明すべき問題は挙げだせばキリがないほどにあるのだ。
にもかかわらず、国民への説明、情報発信というもっとも重要な機会と、高級接待問題が判明したのに続投させた山田内閣広報官の問題を天秤にかけて、菅首相は後者を優先させたのである。
会見を中止しなくてはならない問題を引き起こした人物こそ辞めさせるべきなのに、逆に国民への説明責任の場である会見のほうをやめてしまう──。ようするに、菅首相は国民の命の安全を守るということよりも、長男への便宜供与の疑いがある山田内閣広報官、そして自分自身を守ったのだ。
そもそも、あの安倍前首相でさえ、緊急事態宣言発出中には、宣言解除のときを除いて2回、会見をおこなっていた。しかし、菅首相は宣言の追加や解除のときを除くと1度も会見をおこなっていない。この事実をとっても国民軽視の姿勢ははっきりとしているが、今回の国民を捨てた自己保身は、あまりに露骨すぎる。コケにされたメディア側も、もっと大きく批判すべきだ。
(水井多賀子)
最終更新:2021.02.26 08:36