ようするに、「一般の人への接種開始は5月」という方針がたんに河野大臣の耳に入っていないだけか、あるいはこの情報が出ると都合の悪い問題を抱えているがために、河野大臣は一方的に「フェイク」扱いしてメディアを非難したのだろう。
その上、下劣なのはその攻撃の仕方だ。河野大臣は、存在しない架空の「政府関係者」をメディアがでっち上げているかのように攻撃しているが、実名など情報源を完全に公開しなければ記事にできないようになれば、官僚も政治家も、誰も口を開かなくなる。無論、為政者の無責任な発言などの場合、実名を明らかにすべき場面もあるが、国民にとって重要な政府方針の報道にまで統制を強いるような河野大臣の物言いは、不当なメディア圧力にほかならない。
しかも、河野大臣には、今回と同じように「フェイクニュースだ!」と吠えたあと、実際にはそれが正しい報道だったことが証明されたという“前科”まである。
それは河野氏が防衛相を務めていた昨年5月のこと。読売新聞が「政府がイージス・アショア配備を断念する方向で検討に入った」と報じ、NHKや共同通信も同じ趣旨で後追いしたのだが、河野大臣はブログやTwitterでこれを全面否定し、「フェイクニュース」と攻撃した。しかし、その1カ月後の6月、河野防衛相自らイージス・アショアの配備計画の「停止」を発表したのである。
にもかかわらず、またも一方的に「フェイクニュース」だと断言して、メディア攻撃に精を出すとは……。そもそも、今回の「5月接種開始」問題にしても、ワクチン相としての権力によって厚労省の方針を覆して時期をずらすことも不可能なことではない。つまり、「フェイクニュースではなかったのにフェイクに仕立て上げる」ことが可能な立場にあるのだ。そうした権力を持つ人物が、軽々に「フェイク」などとメディアを攻撃することは、けっして許されるものではない。
しかし、どうして河野大臣は今回、この「5月接種開始」報道に過敏になったのか。それは、この「5月接種開始」という政府方針がずれ込む可能性があるからなのではないか。
というのも、昨日20日に田村憲久厚労相がファイザーとおこなった正式契約の内容を発表したが、昨年7月の基本合意では6000万人分のワクチンを「今年6月末まで」に日本に供給するとしていたのが、正式契約では「7200万人分を年内に」と、時期が半年も遅くなったのだ。
田村厚労相は「今年前半までになるべく多く供給いただくようお願いしている」と述べるに留まったが、正式契約が「年内」となれば、一般の人への接種開始が5月から大きくずれ込む可能性も出てくる。もしそうなれば、河野大臣も「5月接種開始ではなかったのか」と責任追及を受けることになるだろう。そのために、「フェイクニュースだ」とあらかじめ予防線を張ったのではないのか。
しかも、政府には「5月に接種開始をして国民に五輪開催への安心感を与える」という目論見があったが、「年内」となればこの雲行きも怪しくなってきた。当然、この問題でも河野ワクチン相にも責任が及ぶことになる。