この罰則案に対しては、ネット上でも「検査したくてもできない人がこんなにいるのに?」「入院すべき人が入院できない状況なのに?」という指摘が巻き起こっているが、あまりも当然すぎる反論だろう。
まず、「保健所の調査を拒んだり嘘をついたら刑事罰」というが、13日の会見で記者から「保健所の調査の回答拒否や虚偽回答が実際どれぐらいあるのか、また、どれほど深刻な問題かを裏付けるような具体的な数字を示してもらいたい」と追及された際、菅首相は「具体的には承知しておりません」と言い放った。根拠もないのに刑事罰を設けるなどと述べているのである。
だいたい、現状は市中感染が広がったために感染経路不明者が増加し、首都圏では保健所の調査が簡略化される方針だ。政府はクラスター追跡を「日本モデル」などと自画自賛してきたが、その「日本モデル」とやらに実効性を持たせたいのなら、まずは感染者に増加の傾向が出てきた初動でしっかり対策を打つこと、さらに保健所機能の強化のための支援に力を入れるのが先決だ。実際、第1波の際、アメリカのニューヨーク州では大規模な市民への無料検査と同時に、濃厚接触者の追跡(トレーシング)にも力を入れ、この追跡をおこなうための「トレーサー」を育成、新たな仕事を生み出した。こうした取り組みもなく罰則だけ設けても、うまくいくはずがない。むしろ「刑事罰を受けるかもしれない」という恐怖から、感染の疑いを感じても相談・受診しないという人を生み出し、さらに感染を拡大させる可能性すらある。
いや、そもそも菅政権は「説明拒否や嘘をついたら刑事罰」などということを言える立場にない。15日放送『ひるおび!』(TBS)では、片山善博・前鳥取県知事が「国会で118回も嘘ついた人がいるじゃないですか。何のお咎めもないじゃないですか」「上の人がそんな自堕落なことをしていて、弱い庶民がちょっと嘘をついたら刑事罰なんていうのは、法治国家としてバランスを欠いていると私は思います」と安倍晋三前首相の問題を取り上げて一刀両断していたが、まさしくそのとおりだ。
入院勧告に従わない患者に対する刑事罰も同じだ。この1年、さんざん医療提供体制の不備が指摘されながら強化してこなかった安倍・菅政権による失策のツケが回り、その結果、いまは入院するべき状態の患者が入院できず、入院待機中に死亡するという事例が相次いでおこっている。政府の怠慢の末に見殺しになったと言ってもいい状況だが、いまやるべきは「入院を拒否すれば刑事罰」などということではなく、必要な人が必要な医療を受けられる正常な状況をつくることなのは言うまでもない。