さらに、前述したように、菅首相は「持続化給付金」打ち切りのみならず、企業倒産を防ぐために設けた「家賃支援給付金」の打ち切りや実質無利子・無担保融資の条件厳格化を決めたが、これも、菅首相が「心酔」していると言われる、例のあの人物の“教え”が頭にあるからだろう。
その人物とは、竹中平蔵氏と並ぶ菅首相のブレーンで、「成長戦略会議」のメンバーにも選ばれた、小西美術工藝社社長であるデービッド・アトキンソン氏。アトキンソン氏はゴールドマン・サックス証券の元アナリストだが、菅首相の入れ込みようは相当で、講演では「私はアトキンソンさんの言うとおりにやっている」と発言しているほど(朝日新聞9月19日付)。
そのアトキンソン氏の主張こそが、“中小企業の淘汰”なのだ。
アトキンソン氏といえば“最低賃金の引き上げをおこなうべき”という主張で知られ、格差是正や貧困問題の観点からもその主張に肯首しそうになるものだ。しかし、アトキンソン氏の主眼は、最低賃金の引き上げによって中小企業を淘汰することにある。たとえば、アトキンソン氏はこんな発言をおこなっている。
「人口減少の観点からして、小規模事業者の中でも中堅企業にはならない、なろうとしない、慢性的な赤字企業はただの寄生虫ですから、退場してもらったほうがいい」
「中小企業は、小さいこと自体が問題。ですから、中小企業を成長させたり再編したりして、器を大きくすることをまず考えるべきです。それができない中小企業は、どうすべきか。誤解を恐れずに言うと、消えてもらうしかありません」(「プレジデント」5月29日号)
雇用を守ることを最優先すべきこのコロナ禍にあって「ただの寄生虫」「消えてもらうしかない」と言い切ることには背筋が凍るが、恐ろしいことに、菅首相はこうしたアトキンソン氏の考えを政策に反映させ、実行に移そうとしているのだ。
実際、閣議決定された追加経済対策のなかの中小企業の支援策は、事業転換が条件。わざわざ〈淘汰を目的とするものではない〉と記しているが、体力がないなかでの事業転換は容易なものではなく、〈人材やノウハウの乏しい中小が取り残される懸念がある〉という指摘も出ている(毎日新聞9日付)。