そう考えると、これはまさしく第一次安倍政権の再現と言ってもいいだろう。第一次政権の辞任の理由も、いまは「持病の潰瘍性大腸炎が悪化したから」ということになっているが、これは完全に後付けで出てきたものだ。
当時、第一次安倍政権では、次々と大臣の「政治とカネ」問題が噴出して“辞任ドミノ”が起こり、さらには「消えた年金」問題が追い打ちをかけ、2007年7月29日の参院選で安倍自民党は惨敗。与野党勢力が逆転する「ねじれ国会」となって、様々な法案審議がストップした。すると、それからわずか約1カ月半後の9月12日、安倍首相が唐突に辞意を表明するのだが、この辞任会見で安倍首相が語った理由は、テロ対策特別措置法に基づく海上自衛隊のインド洋での給油活動を続けるために「私が辞することによって局面を転換したほうがよいだろうと判断した」というものだった。
翌13日に慶應大病院に入院し、24日にあらためて会見を開いて、「この1カ月間、体調は悪化し続け、ついに自らの意思を貫いていくための基礎となる体力に限界を感じるに至りました」と健康問題が理由であると修正したが、この時点でも「潰瘍性大腸炎」だとは一言も言わなかった。公表された医師団の診断も強度のストレスと疲労による「機能性胃腸症」というものだった。
ところが、翌2008年1月発売の「文藝春秋」に安倍首相は「わが告白 総理辞任の真相──突如、襲った体の異変。今、初めてすべてを明かす」と題した手記を発表。そこで「潰瘍性大腸炎」という持病を抱えていることを告白して、辞任を正当化。これが復活の狼煙となって、最終的に政権に返り咲くわけだ。
今回は辞任発表と同時に「潰瘍性大腸炎」を持ち出したという違いはあるが、やり口はこのときと同じなのではないか。辞任の本当の理由は政治的に追い詰められ、嫌気がさしたからにすぎないのに、政権投げ出しを正当化するために潰瘍性大腸炎を持ち出す──。
昨日、立憲民主党の石垣のりこ参院議員が安倍首相の辞任を受け、「『大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物』を総理総裁に担ぎ続けてきた自民党の『選任責任』は厳しく問われるべき」とツイート、大炎上しているが、この指摘はけっして間違ってはいない。
おかしいのは「病気をネタに攻撃するのは不謹慎だ」「人の病状を取り沙汰する行為は醜い」「病気で弱っている人を叩くな」「仮病扱い」などといって、追及を封じ込める意見のほうだ。
何度も言うが、相手はその政策判断によって国民の生命や生活が一変するような権力を握っている一国の総理大臣なのだ。そんな人物が自ら健康不安情報を流しているのだから、その真偽や詳しい病状を追及するのは当然だろう。
ところが、この国のマスコミはそういうくだらない批判に怯えて、追及や検証を放棄。その結果、安倍首相のような無責任な総理大臣を復活させ、同じことを繰り返させてしまった。
いや、それは過去形ではない。今回の辞任会見で、テレビ朝日記者の「今後、対中・ロシアなどの外交に取り組まれる意欲はありますか?」という忖度丸出し質問に、安倍首相はなんと、こう答えたのである。
「次なる政権にですね、対しても、影響力……ま、当然のことなんですが、いち議員として協力してしっかり支えていきたいと思います」
聞かれてもないのに「次なる政権に対しても影響力」と宣言……そう、この男、コロナの重圧からまんまと逃れてすでに元気を取り戻し、院政を敷く気満々なのである。安倍応援団の「病気で弱っている人を叩くな」などという圧力に従っていたら、みたび無責任男の復活を許すことになるだろう。
(編集部)
最終更新:2020.08.29 07:59