つまり、共同声明参加の打診を日本政府が拒否したのは事実であり、そのため菅官房長官は否定できなかっただけにすぎない。実際、共同通信はいまなお記事を訂正しておらず、ロイターなど海外メディアも後追い報道をおこなっている。さらには、産経新聞までもが無理やりな言い訳をつけながらも〈米政府が4カ国共同声明に加わるよう打診したのは事実〉(産経ニュース6月23日付)と報じているほどだ。
さらに、この共同による報道直後の6月10日には、安倍首相は国会で「日本がG7で共同声明の発出をリードしたい」旨を発言し、中国から抗議を受けたが、この発言も声明拒否報道の打ち消しのためのアピールでしかなかった。実際、その約1週間後に出されたG7外相声明について国内メディアは「日本が提案した」などと報じているが、英ガーディアン紙では、中国と曖昧な関係にある日本をイギリスが説得したと報じられた。
ようするに、日本政府は民主主義国家として国際社会と協調し中国を強く批判することもせず、安倍首相は他国から説得される始末だったというのにそれを手柄のように誇っている有様で、中国の弾圧法に対する姿勢も、実態は「やってる感」アピールでしかないのだ。
しかも、中国の暴挙に対して日本が明確に批判をしないのは、これが初めてではなかった。
昨年夏、容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」をめぐって香港で抗議デモが広がり各国が中国政府を批判するなか、「大きな関心を持って注視している」「香港が『一国二制度』の下で自由で開かれた体制を維持し、民主的に力強く発展するよう期待する」などと明確な批判には踏み込まなかった。
やはり香港やウイグルでの人権弾圧が問題になっている最中の昨年12月にも、中国・成都で安倍首相が、習近平国家主席や李克強首相と会談した際には、香港について「自制と早期収拾」、ウイグルについて「透明性をもった説明」を望むと述べるなど、最低限言及しただけ。それどころか、嵐を「日中親善大使」に起用することを習主席と李首相に直々に伝えるなど、今年4月に予定されていた習主席の訪日に向けてご機嫌をとる始末だった。
ネトウヨを支持層にしながら、中国に対するこの弱腰ぶり──。その背景には、中国とパイプを持つ二階俊博幹事長の影響があるとメディアは指摘するが、“影の総理”今井尚哉首相補佐官の存在を忘れてはならない。
「今井補佐官は経済目的で中国との関係を強めたい経産省の意向を受けて、中国の一帯一路構想やAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加にも積極的。2017年に二階俊博幹事長が訪中した際には、親米タカ派の谷内正太郎国家安全保障局長(当時)が担当した安倍首相の親書を書き換えるよう指示したとされるほどです。安倍政権が中国に強く抗議できないのは、この今井補佐官が抑えているからだと言われています。まあ、安倍首相は今井補佐官の言うことにはほとんど反対しないと言いますから」(全国紙政治部記者)
しかし、これに加えて、安倍首相の志向の問題もあるだろう。というのも、香港問題では弱腰の安倍政権だが、歴史認識や領土問題では中国の顔色を伺うどころか、歴史修正主義丸出しの姿勢や軍事的緊張を引き起こすような政策を平気で打ち出しているからだ。
この姿勢の極端な違いは、ようするに、日本の引き起こした戦争を批判されることは絶対に我慢ならないが、香港の人権侵害なんてどうでもいい、といういずれもが安倍首相の人権軽視思想のあらわれではないのか。
いや、この間、総理大臣の街頭演説に対しヤジを飛ばしただけで警察が拘束・強制排除したり、メディアに圧力をかけて政権批判を封じるなど、まさに表現の自由、報道の自由を破壊してきた安倍首相のことだ。むしろ、中国の言論弾圧は“目指すべき国家のかたち”なのかもしれない。
いずれにしても、今回の香港問題における対応は、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値」という言葉をやたら強調する安倍首相の真逆な本質を浮き彫りにしたといえるだろう。
(編集部)
最終更新:2020.08.11 09:59