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ワセダクロニクル「吉田調書報道の真実」前編

「吉田調書」を報じた朝日新聞特報部元記者らが改めて検証! 誤報ではない「吉田調書報道」をなぜ朝日新聞は自ら葬り去ったのか

 記事が出てから3カ月半後の2014年9月11日、木村伊量社長は、杉浦信之編集担当役員、喜園尚史広報担当役員と共に、突然、記者会見を開き、記事を取り消した。木村社長は冒頭、次のように述べた。

「朝日新聞は『吉田調書』を政府が非公開としている段階で入手。吉田調書を読み解く過程で評価を誤り、『命令違反で撤退』という表現を使った結果、多くの東電社員らがその場から逃げ出したかのような印象を与え、間違った記事だと判断いたしました。『命令違反で撤退』の表現を取り消すと共に、読者及び東電の皆様に深くお詫びを申し上げます」

 記者会見には、会見を手伝う関係者以外は朝日新聞の社員は入れなかった。

 その1カ月後、朝日新聞特別報道部員だった渡辺周現ワセダクロニクル編集長は、経営・編集の責任者たちの説明に耳を疑った。

 2014年10月6日午後2時、渡辺周は、東京・築地にある朝日新聞本社の15階レセプションルームにいた。朝日新聞の社員約300人が詰めかけていた。朝日の役員たちが社員向けに開いた「一連の問題」についての説明会だった。一連の問題とは次の三つを指す。

 (1) 8月初旬に慰安婦報道の検証結果を掲載。その中で、1982年から掲載した記事を取り消した。「済州島で200人の若い朝鮮人女性を『狩り出した』」という吉田清治氏の証言がウソだった。だが朝日新聞はウソの証言を掲載したことについて謝罪しなかった。
 (2) 9月初め、朝日新聞が慰安婦に関して吉田清治氏が証言した記事を取り消したことについて、池上彰氏が朝日新聞のコラム「池上彰の新聞ななめ読み」で、「慰安婦報道検証 訂正、遅きに失したのでは」と書こうとした。だが朝日新聞は掲載しなかった。
 (3) 9月11日、朝日新聞が原発「吉田調書」報道を取り消した。

 壇上には、解任された前編集担当役員の杉浦信之、新編集担当役員の西村陽一、前ゼネラルマネジャーの市川速水、前ゼネラルエディターの渡辺勉。そして、販売担当役員の飯田真也、社長室長の福地献一が並んだ。

 杉浦が冒頭にこう言った。

「私は9月11日の記者会見で吉田調書の報道を取り消し、社長が謝罪するという中で、編集担当の職を解かれました」
「しかし、私自身の中では、9月の冒頭にあった池上コラム(不掲載)の中で、まさに朝日新聞の名誉を傷つけたことが最も大きいと感じていました」
「私自身、吉田調書で解任されていますが、私の中では現在でも、池上コラム(不掲載)が最も重大な責任であったと感じています」

 渡辺周は驚いた。記者会見は池上コラムの不掲載を謝罪するためではなく、吉田調書報道を取り消し謝罪するために開かれた。それなのに木村社長と共に記者会見に出席した編集部門の責任者が、「池上コラムの不掲載が最も重大な問題」と発言したのだ。

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