ところが、こうした検察の動きに対して、官邸は今回、冒頭で紹介したように、黒川氏の「定年延長」というウルトラCを打ち出して対抗してきたのだ。これで、黒川氏が今年夏の人事で、検事総長に就任するのはもちろん、IR汚職捜査などの動きが一気に鈍るのは確実だろう。
「実際、黒川氏の定年延長が判明した途端、検察内部では一斉に、『秋元逮捕だけでIR汚職捜査もおしまい』という声があがっています。ジャパンライフ再捜査も難しくなるでしょう」(前出・全国紙司法担当記者)
こうした流れを見れば、今回の人事介入が“官邸の番犬”である黒川氏を論功行賞として検察トップに据えるというだけでなく、その復権によってIR汚職捜査を止めるという目的があったことは明らかだろう。そう、これはどう考えても、安倍官邸による検察への捜査圧力だったのである。
しかも、官邸はそのために、違法行為まで働いた可能性がある。前述したように、検事長の定年延長は前例がないのだが、それもそのはず。今回、安倍政権は国家公務員法の規定にもとづき、黒川氏の定年延長を決めたとしているが、元東京地検特捜部検事の郷原信郎氏によれば、検事長の63歳定年は「検察庁法」で決められていることであり、例外は認められていない。したがって、検察庁法違反の疑いがあるという。
まさに、独裁国家並みの人事介入だが、しかし、マスコミはこの人事について、ごく一部のメディア以外、ほとんど取り上げていない。韓国のチョグク前法相の捜査への圧力や韓国の検察人事の問題にはあれだけ大騒ぎしたテレビも、安倍政権のこんな重大な検察への圧力、人事支配にはダンマリを決め込んでいるのだ。
メディアがこんな調子では、日本が本物の独裁国家になる日もそう遠くはないだろう。
(田部祥太)
最終更新:2020.02.03 04:09