もうひとつの記事「東大もババ引かされた? ~検証 英語民間試験」は、その続編と言える記事で、英語民間試験導入をめぐる東京大学の対応の変化を中心に報じたもの。東大は、86の国立大が参加する組織「国立大学協会」が民間の活用方針を打ち出した4カ月後の2018年3月、「現時点で入試に用いるのは拙速」という慎重姿勢を示していた。ところがその約1カ月後の4月27日、一転して、ホームページに「民間試験の活用を前向きに検討」することが表明された。
取材班は、この東大の転向を追うなかで、自民党の「教育再生実行本部」に注目する。独自に入手した音声データには、東大が翻意する2週間前、4月13日に開かれた教育再生実行本部の会合でのやり取りが。そこには、安倍首相の側近であり、英語民間試験導入を指示してきた下村元文科省の、こんな発言が記録されていた。
「これはやっぱり問題だと思いますよ。文科省はよく東大に指導していただきたい。(中略)間違ったメッセージを国民や他大学に与えていることに対して、きちんともう一度記者会見をして、東大が先頭に立ってやるということをまず言っていただきたい。やるということは、やるということを前提に、ぜひ指導をしていただきたい」
記事では、東京大学の元副学長でもある石井洋二郎名誉教授の「最後の最後で、大学が守るべきものは何かといえば、批判精神を持って学問の自由を守ること。それを失ったら、大学は終わりだと思います」というコメントで締めくくるなど、東大に介入し、民間試験をゴリ押しした政権幹部に批判的なトーンだ。
この2本の記事はSNSでも大きな話題になったのだが、しかし、前述したように、この2本の記事が突然、ウェブから削除の憂き目にあった。
NHKは記事「ババ引かされたのは受験生だ! 英語民間試験 なぜ国は推進した」について、HPで「内容を精査した結果、以下の事実の誤りや説明に丁寧さを欠いた点がありました」などと説明しているが、そこで挙げられている点は些細なもので、大げさに言ってもケアレスミスの域、記事を丸ごと削除するほどのこととは到底思えない。さらに、下村元文科省が東大に向けた“圧力発言”を伝えた続編記事「東大もババ引かされた? ~検証 英語民間試験」については、削除した理由すら明らかにしていないのだ。
「緊急部会では、部長がこの2本の記事の削除事例を挙げて『こういうことも起きている』と発言したという。しかし、デスクや記者からは『削除までするのはおかしいのではないか』という声があがり、紛糾状態になった。ところが、上層部はまったくこれに答えず、東大記事ついては、部長も『削除する理由を論理的に説明することはできない』と発言する始末だったようです」(前出・NHK関係者)
こうしたやり取りを聞くと、やはり、安倍政権やその周辺から抗議、圧力があったとしか考えられないだろう。周知のように、英語民間試験導入については、塾業界から支援されている下村元文科相氏の強い意向が取り沙汰され、文科省も見切り発車を強いられていた。NHK社会部が追及したのはまさにそのことだが、ここに局内から横槍が入ったということは、明らかに社会部長より上の幹部に、政治家から大きな圧力がかかっていなければ説明がつかない。