自分の見たいものしか見ず、被災地から目を背けてなかったことのように振る舞う──。しかしこれは、災害発生時から一貫して安倍首相がとってきた態度だ。
あらためて振り返ると、9月に首都圏を直撃した台風15号では千葉県に甚大な被害をもたらしたが、安倍首相は関係閣僚会議の開催はおろか総理指示も一切出さず、千葉県の被害状況があきらかになった同月9日から2日後の11日には内閣改造を決行させた。『news23』(TBS)の報道によると、気象庁が記録的な暴風になると記者会見を開いた同月8日、関係閣僚会議を開催する動きがあったというのに「大きな被害は出ない」として見送りにしていた上、9日には官邸幹部との会議で「2、3日で復旧するだろう」という見方を共有していたという。つまり、初動対応がまったくなっておらず、その初動対応の甘さを認めるわけにはいかないために内閣改造を予定通り決行したのだ。
こうした初動の遅れによって被害は拡大し、熱中症による死亡者や通電火災といった2次被害まで出してしまったわけだが、しかし、安倍首相に反省はまるでなく、今度は10月に気象庁が1200人を超える犠牲者を出した狩野川台風に匹敵するとして最大級の警戒を呼びかけた台風19号が上陸したが、国民に対して会見を開いて避難を呼びかけるといった動きも一切なく、被害が次々と発生していた同月12日は首相公邸で予定もなく“のんびり休養”状態に。首相動静からも災害対策で会議を開いたり専門家やスタッフなどと相談をした形跡は見えず、15時30分には一応、総理指示を出したが、それも7月20日の台風5号のときとほとんど同じ文面にすぎなかった。
しかも、安倍首相は信じられない言動に出た。人命救助の分岐点である発災後72時間以内という一刻を争うなかにあった同月13日夜、安倍首相はラグビー日本代表のスコットランド戦勝利に大はしゃぎし、〈東日本大震災でもスポーツの力を実感しましたが、世界の強豪を相手に最後まで自らの力を信じ、勝利を諦めないラグビー日本代表の皆さんの勇姿は台風で大きな被害を受けた被災者の皆さんにとっても元気と勇気を与えてくれるものだと思います〉などとツイートしたのだ。
このツイートをおこなった時間帯、利根川では氾濫危険水位に到達したことから、千葉県成田市や千葉県香取市、千葉県銚子市といった地域で警戒レベル4の避難勧告が出されていた。また、宮城県丸森町や長野県長野市をはじめとして多くの地域で孤立状態に陥いっていた人びとも数多く存在していた。多くの人びとが危険と隣り合わせで救助をひたすら待ち、避難所で不安な夜を過ごし、あらためて言及するまでもなく大事な人を災害によって失ったり安否が確認できない、そんな状態のなかにある人がいた。そうでなくとも、多くの人びとが被災している真っ最中にあり、停電でスポーツ観戦しているような環境にはなかった。にもかかわらず、安倍首相はそうした被災者の存在を一顧だにしなかったのである。
安倍首相は台風15号のときも同じように被災地そっちのけでW 杯に夢中だった。実際、被害発生から約2週間、一度たりともTwitterで被災地の被害に言及しなかったのに、ラグビーW杯開幕日には「いよいよラグビーワールドカップが、ここ日本で開幕します!」などとノーテンキな動画を投稿し、開幕戦である日本対ロシア戦を会場で観戦。日本が30−10で勝利すると〈トライに次ぐトライで見事な大勝利。本当に素晴らしい熱戦で、ずっとエキサイトしっぱなしでした。日本代表の皆さん、おめでとう!〉とツイートした。ちなみに、安倍首相は台風15号の被害を受けたあと、千葉県に一度たりとも視察をおこなっていない。
千葉県の被災者を見て見ぬふりをして内閣改造を実行し、被災の真っ最中にラグビーW杯に夢中になって「被災者にも元気と勇気を与えてくれるもの」などと投稿する──。あまりに無神経、無責任と言わざるを得ないが、安倍首相はこの姿勢をまったく崩さず、年の瀬になっても被災地を無視してラグビーW杯の話題を持ち出して「日本は世界の真ん中で輝いた年」などと総括したのである。
安倍政権の約7年間を振り返れば、森友・加計問題や「桜を見る会」に象徴される“国家の私物化”も言語道断だが、もうひとつ重要なのは、大災害のたびに被災者をないがしろにしているとしか思えない行動を繰り返していることだ。こうした安倍首相の災害への無関心の根底には、おそらく、自然災害による被害も国民の自己責任という残酷な思想がある。だからこそ、何度批判されても迅速な災害対応がとれないばかりか、被災地をないがしろにするような言動を平気でとるのだ。
4日にドイツのシンクタンクが公表した2018年に気象災害の影響が大きかった国ランキングでは、西日本豪雨などで被害を受けた日本がワースト1位に選ばれた。気候変動による影響が今後高まることが予想されるなか、災害対応よりも自分の楽しいこと、都合のいいことにしか目を向けない安倍首相に、このまま舵取りを任せていていいのか。国民ひとりひとりがよく考えてみるべきだろう。
(編集部)
最終更新:2019.12.23 09:49