安倍政権の不誠実さを突いた上に見事なオチをつけたわけだが、笑いつつもほんとうは笑えない、かなり深刻な話だろう。村本がネタにした「沖縄の発言をしたら吉本社員からやめろと言われた」という問題は今年3月に村本が『AbemaPrime』(AbemaTV)卒業時の生放送でも語り、本サイトでも取り上げたが(既報参照→https://lite-ra.com/2019/03/post-4629.html)、このとき村本は吉本興業の藤原寛副社長が楽屋で待ち受け、沖縄のことで百田尚樹や高須クリニックの高須克弥院長とTwitterでバトルすることを諌められたと述べていた。その後、反社問題をきっかけに安倍政権と吉本の距離の近さが問題視されるようになったが、そうしたなかで村本が政権批判を続けていること、さらには全国ネットの番組で会社から“圧力”をかけられていることを洗いざらいネタにするとは、村本の覚悟のほどが伺えるだろう。
だが、ほんとうにすごかったのはここからだ。村本は「僕はね、きょうはね、みんなときょうは喋りたくてね、カメラの向こうの社会と喋りたいんですよ」と言うと、やはり超高速でこんな話をはじめた。
「いいですか。言いたいことがいっぱいある。たとえばあの台風19号の夜、ホームレスが避難所から追い出されましたね。それに対してですね、ホームレスは『“みんな”の迷惑になるから』という奴がいました。でも、そのホームレスは“みんな”のなかにはいないわけですね。
たとえば、このまえ朝鮮学校に行ってきました。朝鮮学校の子どもと友だちになりました。そんな話をいろんな人に喋ったら、みんなが『どういうテンションで聞いたらいいかわからない』って言われました。その“みんな”のなかに朝鮮学校の子どもはいないわけですね。
いつでも“みんな”のなかにいない人がいて、“みんな”のなかにいない人が透明人間にされて、透明人間の言葉は誰も聞かれないようになるんですよ。 その透明人間が日本にはいっぱいいるわけですよ!
この話をこのまえ喋ったら、最前列のおばあちゃんが『ぜひうちの町でいまの話をやってくれ』って言われて行ってきたら原発の町だったんですよ。そこには言いたくても言えない透明人間の人たちがいっぱいいて、僕の『原発で飯を食う・食わないの話』で泣きながら笑ってるんですよ。この日本にはね、泣きながら笑ってる人がいっぱいいるんですよ。泣きながら笑ってくれて涙流してるんですよ!」
避難所から排除されたホームレスたち、国連の「子どもの権利委員会」の勧告も無視して政府が無償化を除外しつづける朝鮮学校に通う子どもたち、県民の約70%が新基地建設に反対と民意を突きつけたのに工事が強行されている沖縄の人びと、そして議論から置き去りにされたままの原発立地地域に暮らす人たち……。マジョリティは「みんな」という大きな主語でそうした人びとをいない人、「透明人間」として扱い存在に目を向けず、話を聞かないようにしている。「みんな」のいい空気を壊すなと「透明人間」に沈黙を強いている。つまり村本は漫才のなかで、世間の多くが無視をする、マジョリティに踏み潰されている社会的弱者は「いる」のだとお茶の間に直視させ、そうした人たちはこのネタを「泣きながら笑う」のだと突きつけたのだ。
このあと、村本は「全国各地の原発に呼ばれて、その話を小泉純一郎元総理大臣が聞きつけて『村本くんと原発の対談がしたい』って言われて、このまえ小泉純一郎と2人で原発の対談をしてきたんですよ。いや、いやいや、そこで最近気付いたんですが、いま原発で飯食ってんの私でした!!」と漫才らしくオチを付けたのだが、しかし、重要なのは「泣きながら笑う」ということだろう。