実際、この宰相の“ネトウヨ脳”が日本の国益を損ないつつあるのは、なにも徴用工問題で逆ギレ的に放った今回の輸出規制のみではない。たとえばクジラ漁を巡る国際捕鯨委員会(IWC)脱退もそうだ。
周知の通り、日本のクジラ漁に関しては、以前から欧米やオーストラリアを中心に批判を受けており、国内の右派にとってはイデオロギッシュなテーマとなってきた。そう、「鯨食は日本の伝統文化だ、何が悪い!」「カンガルーを食べてる奴らが難癖つけやがって!」みたいな、直情型のナショナリズムである。
いずれにせよ、そうした支持層の声もあり、安倍政権は日本のIWC脱退を決定、今月1日に正式に脱退した。専門家からは「国際法違反」との声もあがっているが、加えて、日本の捕鯨産業にとっても逆に悪影響をもたらすという見方が強い。
というのも、IWCの脱退によって、日本の鯨漁はその海域を大きく縮小されることになったからだ。脱退によって、これまで認められてきた南極海等での調査捕鯨ができなくなり、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)に限定された。しかし、捕獲を続ける海域は、南極海と比較してクジラの絶対数が少なく、全体的にみると捕獲量は減少してしまう可能性が高いのだ。しかも、調査捕鯨から民間の商業捕鯨に移行したところで、すでに鯨食文化は一部の地域に限られており、業者の採算がとれるか不安視されている。すでに商業捕鯨から撤退している水産大手が再参入する動きもない。
実際、IWC脱退には、捕鯨を推進してきた専門家からも疑問の声が上がった。元水産庁の職員で、2005年まで日本政府代表団の一員としてIWCの交渉に携わった小松正之・東京財団上席研究員は、国際捕鯨取締条約からの脱退で、前述した捕獲量の減少や「反捕鯨国や環境NGOから『非加盟国操業』『違法操業』などといった非難を浴び、国際法違反に問われるリスク」、さらには、サンマ、サバなど、鯨よりももっと重要な漁業への悪影響を指摘。こう断じていた。
「何のために脱退するのか理解できません。国益上は大きな損失と言えます」(毎日新聞2019年3月8日夕刊)。