Twitterではしゃぐ小池知事……
1月17日、小池百合子東京都知事のツイートに多くの人々から失笑が漏れた。
小池都知事は、港区にある金属製の防潮扉に描かれた、傘を差したネズミの落書きと、その横に上目遣いの澄まし顔でしゃがむ自身の写真とともに、こんな文章を投稿したのだ。
〈あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました! 東京への贈り物かも? カバンを持っているようです〉
東京都はすでにこの板を取り外して倉庫で保管しており、担当者は朝日新聞の取材に対して「本来、公共物への落書きは許されないが……、本物であれば大騒ぎになりかねないので外した」と話しているという。
ここで思い起こさずにいられないのは、「FREE REFUGEES」「REFUGEES WELCOME」の件だ。
昨年11月20日、東京入国管理局の公式ツイッターアカウントは、入管庁舎近くの道路や横断歩道などに書かれた「FREE REFUGEES」(難民を解放せよ)「REFUGEES WELCOME」(難民を歓迎する)の落書きの写真と共に〈~落書きは止めましょう~ 11月19日早朝,港南大橋歩道上にて。表現の自由は重要ですが,公共物です。少しひどくはないですか。。。〉と投稿した。
このメッセージには、他国に比べて極端に難民認定が少ないことや、入管施設に収容された外国人に対しての人権問題など、入管に対する批判的な思いが込められているはずだが、そういった指摘には向き合うこともなく、また、本当に「ひどい」のは誰かという問いに思いを馳せることもなく、東京入国管理局は「FREE REFUGEES」「REFUGEES WELCOME」のメッセージを「落書き」問題に矮小化させた。
国家による人権侵害、難民問題の軽視を指摘した「FREE REFUGEES」「REFUGEES WELCOME」は「落書き」として痛罵し、バンクシーの描いた(と東京都は思っている)ネズミの絵には「東京への贈り物かも?」と浮かれる──同じ落書きでも180度異なる態度から、その時その時の権力に寄り添うことで現在の地位を築いてきた小池都知事らしいミーハーさが浮き彫りになった一件だが、ここで改めて明らかになったのは、小池都知事がグラフィティアーティストであるバンクシーについて何ひとつわかっていないということだ。
バンクシーのグラフィティアートは、行政に清掃されて消されたり、転売目的の犯行で壁ごと盗難されたりと、そのままの状態で路上に残らなかったケースも多いが、バンクシーのアートは「グラフィティが描かれた場所」も含めてメッセージが込められている芸術であり、行政がそれを剥がして倉庫で管理することは、その作品の価値を無に帰してしまうことである。
ネズミは「労働者」「無宿者」「難民」といった都会のなかで忘れ去れられた人々を象徴する、バンクシーにとって重要なモチーフではある。また、東京藝術大学大学院教授の毛利嘉孝氏らの指摘によると、バンクシーのホームページやバンクシーが監督を務めた映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』に今回話題となっているネズミの落書きと酷似した落書きが登場し、映画やバンクシーに関する情報を集めた「Banksy unofficial」というサイトでは2003年に東京で描かれたと示唆されているという。とはいえ、今回のネズミの落書きがバンクシーの描いたものなのかどうかはわからない。
だが、たとえ本物であったとしても、いや、本物であればなおさら、小池都知事のような権力者が「東京への贈り物かも?」などと歓迎するのは笑い草にしかならない。
誰もが知る通り、バンクシーの描くグラフィティアートには、大資本家への批判や権力者に対する風刺など、資本主義や戦争への批判、反権力的なメッセージが込められている。