これでは家族への仕送りが難しいのはもちろん、自分の生活もままならないだろうことは明白で、しかも、労働条件の改善を訴えても「だったら帰国しろ」と解雇を迫られることは十分に考えられる。家族や友人もおらず、言語によるコミュニケーションも難しい異国の社会で絶望的な状況に追いやられた結果、「失踪」という手段をとった。この聴取票の集計だけを見ても、そうした過酷な背景が浮かび上がってくる。
だが、それを法務省は〈技能実習を出稼ぎ労働の機会と捉え、より高い賃金を求めて失踪する者が多数〉と回答を捻じ曲げ、〈技能実習生に対する人権侵害行為等、受入れ側の不適切な取扱いによるものも少数存在〉などと過小評価。まとめ、山下法相は「より高い賃金を求めて失踪した者が約86%」と、技能実習生が置かれた悲惨な立場をないもののように答弁していたのである。これは恣意的なデータのねじ曲げで、とても看過できるものではなく、「人権無視」という点でも山下法相には大臣の失格はない。
しかし、恐るべきことに、安倍首相はこの法案を来週に衆院で強行採決し、12月の上旬には参院で可決・成立させる気でいるらしい。しかも、安倍首相は今月末から12月上旬まで外遊に逃げ込む予定だ。ようするに、リベラル層だけではなく、自分の支持層である保守や極右も排外的な理由でこの法案に反対しているため、自分が法案を通したという印象を極力薄めるために審議から逃亡しようというのである。
繰り返すが、現行の技能実習制度は事実上の「奴隷制度」であり、外国人受け入れ拡大が技能実習制度を土台とする以上、技能実習生の労働実態のデータがないまま審議することは考えられない。ましてや、法案を強行採決して成立させれば、それは「人権侵害国家」であると国をあげて堂々と認めることになる。野党には徹底抗戦を望みたい。
(編集部)
最終更新:2018.11.16 10:19