たとえば、調査報告書では冒頭から、関係者の提出資料やヒアリング対象者の証言が正確であるかを保証していないことや、調査対象が限定的であることなど、いくつものエクスキューズを並べていた。さらにはこんな文言まで出てくる。
「本調査は、百合丘職舎売却の妥当性に関する調査であり、疑惑を指摘する文書に対する回答ではない。よって、疑惑を指摘する文書の内容に答える内容とはなっておらず、百合丘職舎売却の妥当性判断の範囲外の事柄については、調査の対象とはしない」
つまり、神社本庁側は原告・稲氏が疑惑を告発した檄文の内容を否定し、調査報告書によって「疑念は払拭された」としてきたが、実際には、報告書は檄文の内容を否定するものでなく、むしろ最初から「疑惑を指摘する文書に対する回答ではない」と言い訳していたのだ。しかも、裁判は現在、弁論準備手続を中心に進められているが、そのなかで神社本庁と調査委員会側は、原告側が求めている売買契約書や不動産鑑定書、調査報告書の元になった資料の提出を拒否しているという。これでは、不動産売却は妥当との結論に強い疑義が生じて当然だろう。
9月7日、霞が関の司法記者クラブで行われた原告側による裁判の中間発表記者会見のなかで、稲氏はこのように訴えた。
「少なくとも告発文書をつくって役員2名に渡した時点で、私は百合丘職舎売却にあたって背任行為があったことは確実であろうと思っておりました。そのなかにおいて相変わらず隠蔽行為が続いている」
「神社本庁が現在のような状況であることは、非常にゆゆしきことです。もし、私が神社本庁に戻ることがあれば、そのときは正常化のために力を尽くしていきたいと考えています」
稲氏はいまも不正を正そうとする姿勢を崩していない。しかも、裁判は今後、証人尋問などが予定されており、不動産の不正取引を証明する新証拠や決定的証言が出てくるのではとも取り沙汰されている。
「このまま裁判が長引けば、神社本庁上層部の関与を決定づける証拠や証言が出てくる可能性がある。とりわけ神社本庁側が提出を拒んでいる売買契約書をめぐっては、田中総長らが当初から転売を了承していた証拠が記されているのではとも囁かれています。しかも、これまでは『週刊ダイヤモンド』や『リテラ』など、ごく一部のメディアしか本格的に追及していませんでしたが、現在は全国紙なども取材を進めており、裁判の行方によっては大々的に追及される可能性が出てきた。そこで、田中総長の辞任によって事態の収拾を図ろうとしているんでしょう」(前出・全国紙社会部記者)