また、安田氏は「事件」から2カ月後に嘉手納警察署を訪れ、広報担当の副署長に話を聞いている。副署長は当惑した表情で「事件があったかどうかの確認ができなかった。いまは捜査はしていない」と語ったという。
いずれも本サイトの報道を裏付けるものだが、さらに安田氏は手登根氏にも直撃している。手登根氏は「ネットユーザーがセンセーショナルに騒ぎすぎたきらいはある」と言って、「反基地の運動家が関与していると断言したわけではありません。ただ可能性として、そうした人間が関与した疑いもあるという見解を示しただけです」と述べたという。
あまりに言い訳がましいが、結局のところ、安田氏の取材からも裏付けされているように、「基地反対派が女児を暴行」なる情報には根拠がまったくない。これが客観的事実だ。
もっとも、筆者もまた、警察が事件化しなかったことをもって、何者かによる女児への暴行それ自体が存在しなかったと断言するつもりはさらさらない。しかし少なくとも、その「犯人」を「基地反対派」だとする客観的事実も合理的理由は皆無であって、ネトウヨたちによるミスリードは極めて悪質である。手登根氏が「疑いもあるという見解を示しただけ」と釈明したのが、その何よりの証左だろう。
以上、本稿では、現在、Twitterで再燃している「沖縄で基地反対派が女児を暴行」という情報が、いかにデマであるかについて説明してきた。恐ろしいのは、こうしたデマが検証されてもなお、ゾンビのように復活して、ネット上で一人歩きしているという事実だ。
2018年8月末というこのタイミングに、またぞろ、この基地反対運動をめぐるデマが息を吹き返した背景には、翁長雄志沖縄県知事の逝去と、新基地建設の是非が争点となる9月の沖縄県知事選が関係しているように思えてならない。冒頭に触れた今回のデマ拡散に火をつけたアカウントは、そのプロフィールや過去のツイートからも、あきらかにネット右翼的なユーザーだった。
筆者は、3年前の検証記事の最後を、〈デマは戦中や終戦直後などの、社会的不安と混乱のなかで発生しやすいとされている。今やこの国は、戦中なみのメンタリティに覆い尽くされているのかもしれない〉と締めくくった。いまは、認識を改めなくてはならないかもしれない。
デマは、単に社会の混乱時にのみ顕現するのではない。その裏側には特定の意図が潜んでいる。たとえ拡散者に悪意があろうがなかろうが、そのデマを増幅させるのは、人間の負の感情にほかならないからだ。だからこそ、こうして何度でも蘇るデマに対し、私たちは繰り返し反証し、徹底的に批判する必要がある。「真か偽か」はもちろんのこと、それ以上に、「善か悪か」を自問しなくてはならないだろう。
(梶田陽介)
最終更新:2018.09.03 10:40