だが、再発防止も何も、事件の真相はいまだ解明されていない。事実、今回の報告書では、佐川氏がなぜ政治家関係者の照会状況を削除するよう方針を決めたのか、まったく明らかにされていないのだ。
実際、麻生財務相も会見で、テレビ東京の記者から「国会議員の名前を消したり、総理の発言をきっかけに交渉記録を破棄したり、なぜ財務省の職員はそこまでやらなければならなかったのか」と問われると、「それがわかりゃあ苦労せんのですよ。それがわからんから、みんな苦労してる」と述べ、根本的な問題が解明されていないことを認めた。
しかし、じつはその答えは、今回の報告書にも表れている。今回の報告書では、交渉記録の破棄について、安倍首相が昨年2月17日に答弁した「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」という発言がきっかけだったことをようやく認めているのだ。
だいたい、決裁文書の改ざんにしても、報告書では昨年2月21日の国会議員団との面会がきっかけであるかのように記述しているが、17日の安倍首相の答弁が交渉記録の破棄の契機になったのであれば、決裁文書の改ざんも安倍首相の答弁が引き金になったとしか考えられない。
何より、今回の報告書で腑に落ちないのは、佐川前理財局長が端緒となり、部下たちが決裁文書の改ざんや交渉記録の破棄をおこなったと結論付けていることだ。一介の理財局長でしかない佐川氏が「反応」を示しただけで、300箇所にもおよぶ大規模な改ざんや記録の破棄という国家的犯罪に手を染めるなど、到底、道理に合わない。佐川氏に「指示」した、もっと上の人物がいるはずなのだ。
そして、報告書には一切、名前は出てこないが、その「指示」した人物は、今井尚哉首相秘書官であることは間違いない。
今井首相秘書官の関与については、江田憲司衆院議員や前川喜平・前文部科学事務次官といった、首相秘書官や事務方トップ経験者たちが口を揃えていることだ。たとえば、前川氏はこう指摘している。
「官僚が、これほど危険な行為を、官邸に何の相談も報告もなしに独断で行うはずがない」
「忖度ではなく、官邸にいる誰かから「やれ」と言われたのだろう」
「私は、その“誰か”が総理秘書官の今井尚哉氏ではないかとにらんでいる」(「週刊朝日」2018年3月30日号/朝日新聞出版)