これは解雇の有効性を争った事案である。依頼人はある日突然解雇された。解雇理由も不明であった。そこで、会社に解雇理由証明書の発行を要求したところ、極めて抽象的な内容の解雇理由が返ってきた。具体的にどういった行為が解雇事由になったのか、よくわからない内容であった。
どうも本当の解雇理由は、依頼人を快く思わないある社員が「依頼人と上司ができている」というような噂を経営陣に流し、それを真に受けた経営陣が、ろくに事実確認もせず、証拠も無いのに解雇を決断してしまったようであった。もちろんそんな事実は無く、仮にあったとしても、上司との不倫が確実に解雇事由に該当するわけでもない。
会社が態度を変えないので労働審判を申し立てたところ、会社側は、依頼人が上司とトラブルを起こしたこと等を具体的な解雇事由する答弁書を提出してきた。しかし、それは謝罪をして解決済みのことであり、どう解釈しても解雇理由にはなり得ない。「本当の」解雇理由の方は、何の証拠も無いので主張できなかったようである。
そして迎えた第1回労働審判期日、裁判官の第一声は、
「で? 何が解雇事由なんですか?」。
……静寂に包まれる審判廷。「牛丼を頼んだのに牛肉が入ってないんですけど」的な裁判官のツッコミである。解雇は撤回され、依頼人は無事に職場復帰した。めでたしめでたし。結局、会社は無駄な時間と費用を浪費したことになる。素直に解雇を撤回すれば良かったのに……。