しかも、唖然としたのはこの後だった。日韓合意でヒロミが、この新方針と北朝鮮の五輪参加を絡めて「韓国ってわかんない!」と言い出し、「日本と決めたこと……もうちょっと日本にもアレしてくれりゃあいい」というヒロミにつづいて、松本がこう追い打ちをかけたのだ。
「あんだけ世界のルールをめちゃくちゃにした国がタダでオリンピック行けるっておかしくないですか? だったらもうやったもん勝ちやんけっていう」
クーベルタンの提唱したオリンピズムに「スポーツを通して文化や国籍などの違いを越え、フェアプレイの精神を培い、平和でより良い世界を目指す」とあるように、国家や政権とか関係なくいかなる国籍の人間でも参加できるというのがオリンピックの根本原則だ。実際、北朝鮮と同じように反民主主義的で、戦争行為を仕掛けているような国家の選手たちも何人も参加している。根拠のない対イラク戦争を仕掛けたアメリカや、クリミア半島に侵攻したロシア、内乱で自国民を大量虐殺したシリアだって、その後に五輪に参加している。
松本はそんなことも知らずに「オリンピックはタダで行けると思うな」などといった荒唐無稽な主張を強弁したのだ。
まさに無教養なデタラメと言うしかないが、しかし、こうした主張は、話題が日韓合意新方針に移ると、さらにヒートアップする。松本は「笑ってしまうくらいダメでしょ?」と強調し、話を振られた安藤も「日韓合意は正式な合意だったことは否定しないと韓国は言っているんですよ。でも、あれは当事者の気持ちを汲んでないからダメだって、これ、まったく整合性がないじゃないですか(笑)」と展開した。
当事者の気持ちが反映されずに勝手に政府間で合意をおこなったならば、それを見直そうとすることは当然の話である。また、前政権による合意が選挙を経て翻るケースはよくあることなのに、合意を絶対視して「整合性がない」というのはデタラメだ。
だが、こうした安藤の意見をまとめるようにして口を開いた松本は、このように述べた。
「(10億円を)返してくれよ(と言うと韓国は)『返さない』。で、『誠意を見せろ』。じゃあどんな誠意を見せたらいいんですか? (韓国の返事は)『考えろ』。(スタジオ爆笑)……めちゃくちゃですよね」
この松本の発言もまったく事実ではない。日本政府は韓国からの10億円返還など求めておらず、韓国政府は新方針で自国での10億円負担を予算化しているのだ。実際に菅義偉官房長官も「現実に10億円のこと言って来たら、それは再交渉と同じじゃないですか。ですから私は日本は1ミリたりとも動かないと。まったく応じる気はありません」と述べている。つまり、韓国が「10億円は返さない」と言った事実などなく、返還に応じないのは日本のほうなのに、松本はこうした虚偽によって韓国が強欲で無理難題を押しつけているような印象を広めたのだ。
しかも、松本のこの発言のあと、ヒロミは「どんだけ日本嫌いなんだろうね? 毎回思うけど」と話すと、松本は肩を振るわせて笑っていた。ここには、日本は加害国で韓国が被害国だという意識など微塵もない。心からの謝罪など、安倍首相はこれまで一度たりともおこなってこなかったのにもかかわらず、松本もヒロミも“何度も謝った”と言い張り、呆れたように笑って見せることで韓国は“意地汚い国”だと誘導するのである。
しかし、こうした報道は『ワイドナショー』だけのものではない。なかでも、連日のように韓国バッシングをおこなっているのが『ひるおび!』(TBS)だ。
11日の放送で落語家の立川志らくが「(約束を反故にされたら)そりゃ安倍総理は行かないですよ、平昌オリンピックに。私だって行かないですよ。そのぐらい腹ただしい。もっと日本人怒るべきじゃないですか?」と激怒したことは本サイトで先日もお伝えしたが、同番組で南北協議と北朝鮮の五輪参加を批判しつづけたのは八代英輝弁護士だ。
嫌韓を隠さない八代弁護士は、五輪参加を「北朝鮮が参加して喜ぶのは韓国だけなんで」「国際社会としては、北朝鮮が平昌オリンピックに参加するかどうかは、ある意味、どうでもいいことであって、二国間の問題ですよね」と吐き捨てる一方、日韓合意新方針では、やはりこんな主張を繰り返した。
「最終的かつ不可逆の合意というように双方が約束したことを、平気でこうやって蒸し返そうとしてくる。これはやはり国とは言えないですよね」(11日放送での発言)
「本来でしたら平昌オリンピックの開会式も当然、安倍総理はご出席される意向だったと思うんですけど、やはりこれから韓国との信頼関係を積み重ねていこうという、その一段目を崩されてしまいましたから。しかも、このオリンピック開会間際にこういうことをされてしまったので、なかなか出席というわけにはいかないと思うんですよね」(12日放送での発言)