それは、メディア上での発言や自身の作品にも反映されている。特に、13年リリースのアルバム『SAMURAI ROCK』には「絶世の美女」という、原子炉を悪女にたとえてその厄介さや悪質さを訴える楽曲も収録されるなどしていたが、そのような活動を行うようになった裏にはこんな思いがあったという。
「このまま何も策を講じることなく死んじゃったら、僕ら、恥ずかしい世代ですよね。放射能のことも、僕らは本当のことを知らず、知識がないゆえに傍観してきた。それは悔いても悔やみきれない」(「週刊文春」12年4月12日号/文藝春秋)
しかし、このように反原発のメッセージを訴え続けていれば、当然、原発スポンサー企業との間で軋轢が起こる。実際、「CM契約をとるか、自分の主義主張をとるか」という選択を迫られることもあったという。
「リスキーだし、マイナス面も増えますよ。実際にコマーシャルの話が来る時に『原発発言、しますか?』みたいに訊くところもあるわけで。『しますよ』と言うと、その話はもうそこでなかったりするしね」(「bridge」13年3月号/ロッキング・オン)
ただ、それでも彼は諸々の圧力で発言をつぶしてこようとする勢力に屈することは一切なかった。彼は「週刊朝日」(朝日新聞出版)14年9月19日号のなかで、「金や権力で人を黙らせようとするものに対しては、自分は絶対に「はい」とは言えません」と発言。アーティストとしての主義主張はいかなるものでも変えさせないと宣言している。
この姿勢には感服せざるを得ないが、しかし、吉川のように社会的な発言をしていると必ず襲ってくるのが、「何の知識もない芸能人は黙っていろ」といった攻撃だ。そういった「炎上」に対しても、彼はこう言い切っている。
「一時期、文化人とかエンターテイナーが政治や経済について語ることはかっこ悪いみたいな風潮が日本にもあったと思うんだけれども、今はそんなこと言ってる人がかっこ悪いと思ってますよ。どんどん言うべきじゃないのっていう」(前出「bridge」13年3月号)
前掲『NNNドキュメント 4400人が暮らした町〜吉川晃司の原点・ヒロシマ平和公園〜』の冒頭で彼は、「年を重ねるごとに故郷への思いも変わってくるっていうか深くなってくる」と広島への思いを語っていた。
吉川にはこれからも核や原発についてのメッセージを怯むことなく発信し続けていってほしい。それは、広島や日本のみならず、この世界にとって重要な主張なのだから。
(新田 樹)
最終更新:2017.12.13 08:03