昨年、草の根から大ヒットを記録し、現在ではアメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、ブラジル、スペインなど世界各国で上映されているアニメ映画『この世界の片隅に』。この作品は、当初150分の作品で製作費4億円を予定していたが、資金調達に難航し120分に短縮、製作費を2億5000万円まで縮小することで製作にこぎつけている。映画の善し悪しは製作費の多寡で決まるわけではないし、結果的にはここで30分削ったことが作品の質を高めた可能性もなくはないが、いずれにせよ、ANEWで使われた無駄金がこういった有意義なところにまわされていれば……と考えずにはいられない。
この例が端的に示す通り、政府も行政も、日本の映画産業の未来などについて真面目に考えてはいない。それどころか、安倍政権は、日本の映画やドラマを政治利用しようと画策している。
今年1月、政府は1868年の明治維新から150年の節目となる2018年に実施する記念事業として、明治期の国づくりなどを題材とした映画やテレビ番組の制作を政府が支援することを検討していると発表。菅義偉官房長官はこれに関し、「大きな節目で、明治の精神に学び、日本の強みを再認識することは重要だ」とコメントしている。
なぜ、「明治期の国づくり」限定で国が金を出すのか? 安倍政権とその背後にいる極右勢力の思惑をもはや隠そうともしていないこの国策映画事業案には当然反発が相次いだ。たとえば、映画監督の想田和弘氏はツイッターでこのように怒りを表明している。
〈戦時中の国策プロパガンダ映画を思い出す。つまらない映画にしかならないことは確実だが、映画を馬鹿にするんじゃないよ。映画は政治の道具ではない〉
政権が支援してつくらせた映画やテレビ番組で観客に何を伝えようとしているかは言うまでもない。明治以降の大日本帝国を「伝統」などと嘯き、戦後の日本を否定すること。こういった思想を映画やドラマにまぶすことで、「改憲」への世論形成の後押しにしようと考えているのは明白だ。
「クールジャパン戦略」の名目で集められた多額の血税がドブに捨てられ、そして今度は、偏狭な政治思想のために、金のみならず、映画作家の才能と技術までもが利用されようとしている。
「クールジャパン」を錦の御旗にすれば「何でもアリ」となってしまう風潮を改めなければ、この先も、日本のコンテンツ文化はまったく海外に広まっていないのに、金だけは垂れ流されるという悪循環が続いていってしまうだろう。
(編集部)
最終更新:2017.11.01 06:59