しかも、この演説で安倍首相が語気を強めた「圧力」は、国連決議等を担保とした経済制裁の発動にとどまらない。文脈を踏まえれば、明らかに武力をちらつかせた「圧力」、すなわち軍事行動を視野に入れた発言と言わざるをえない。
実際にマスコミ報道によれば、日本時間20日午前に開かれた昼食会で、トランプ大統領は隣に座る安倍首相に対し「北朝鮮と対峙する上で力が必要だ。シンゾウは強い」などと伝えていたという。報道が事実ならば、これは米大統領が日本の首相に北朝鮮へ攻撃した場合の軍事的支援を要請したとも受け取れる。いやむしろ、すでに安倍首相とトランプのなかで勝手に規定路線にされているというふうに見るべきだろう。
事実、本サイトでもお伝えしたとおり、9月3日の北朝鮮による核実験の直後、日米首脳は電話で対応を協議しているが、米政府の発表によると、そのなかで「2国間の断固たる相互防衛の約束を確認」している。また、8月10日の閉会中審査では、小野寺五典防衛相が、北朝鮮がグアムに向かってミサイルを発射した場合に「米側の抑止力・打撃力が欠如することは、日本の存立の危機に当たる可能性がないとも言えない」として、集団的自衛権を行使できると答弁したのも記憶に新しい。
ようするに、安倍首相はトランプ大統領に対し、北朝鮮と米国の軍事衝突が発生した際、日本が安保法制に基づいて集団的自衛権を行使し、自衛隊が軍事的な作戦に参加することを水面下ですでに確約していると考えられるのだ。
それだけではない。安倍首相の国連での演説が恐ろしいのは、積極的に北朝鮮を挑発し、軍事衝突をけしかけてすらいたからだ。
安倍首相は、北朝鮮による核・ミサイル実験について「脅威はかつてなく重大です。眼前に迫ったものです」と煽ったうえで、「我々が延々続けてきた軍縮の努力を、北朝鮮は一笑に付そうとしている。不拡散体制はその史上最も確信的な破壊者によって深刻な打撃を受けようとしている」と述べた。
自分は国連の核兵器禁止条約を拒否し、北朝鮮と同じく核不拡散条約非加盟のまま核武装を進めるインドには原発を売っておきながら「我々が延々続けてきた軍縮の努力」などと一体どの口が、と呆れるほかない。しかも北朝鮮の代表も参加している国連総会で、わざわざ金正恩委員長を名指しするかたちで「史上最も確信的な破壊者」と痛罵するとは……。もちろん、北朝鮮の核開発やミサイル発射は国際法違反であり、徹底して批判されねばならないが、これはあきらかに不要な挑発以外のなにものでもない。誰の目にも、北朝鮮のさらなる威嚇行動を手招きしているようにしか見えないではないか。