『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(KADOKAWA)
先日、『オードリーのオールナイトニッポン』(6月11日放送分/ニッポン放送)で「日本人って、メチャクチャ忙しい人のことをすごく偉いと思ってるじゃない? 『なんか頑張ってるね~』みたいな。何が偉いんだろうな、あれな」と、過重な労働を賛美し、それを強制する日本社会に対して疑問を呈したオードリーの若林正恭。この発言は大きな話題を呼び、本サイトでも取り上げたが、そんな若林がキューバを旅したエッセイ集『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(KADOKAWA)を出版した。
2015年にアメリカとの国交が回復して以来、キューバは人気観光地のひとつとなっているが、若林がタイトなスケジュールの間隙を縫ってわざわざキューバまで出向いたのはそんなことが理由ではない。
若林は以前から、「裕福な暮らしをするために死ぬ気になって働く」といった価値観に疑問を持ち続け、事あるごとにそういった考えへの違和感を口にしてきている。たとえば、エッセイ集『社会人大学人見知り学部 卒業見込』(KADOKAWA)ではこのように綴っていた。
〈テレビのお仕事を頂くようになって間もない頃、スタジオで有名人のお宅訪問的なVTRを見ていた。その有名人の自宅や家財道具がいかに高級なものであるかを紹介するVTRだった。
ぼくはそれを見ていて「どうでもいい」という感情がハッキリと芽生えたことに怖くなった。自分が隠れキリシタンであることをバレないようにしているような気分だった。そのVTRに対するコメントを求められた時に「どうでもいい」とは勿論言えず、言葉を探すのにとても苦労した。〉
『社会人大学人見知り学部 卒業見込』は2013年に出版された本だが、それから時が経つにつれ、若林は、行き過ぎた拝金主義であったり、ブラック企業問題であったり、格差に関する問題であったりといった、自分が日本社会に対して感じる違和感の大元が「新自由主義」という考え方やシステムのせいなのではないかということに思い至るようになる。
〈ぼくは20代の頃の悩みを宇宙や生命の根源に関わる悩みだと思っていた。それはどうやら違ったようだ。人間が作ったシステムの、一枠組みの中での悩みにすぎなかったのだ。
「ちょっと待って、新自由主義に向いてる奴って、競争に勝ちまくって金を稼ぎまくりたい奴だけだよね?」
(中略)
日本に新自由主義は今後もっと浸透していくと頭の良い人が本に書いていた。おまけに、AIが普及するとさらに格差は広がるらしい。
「超富裕層の資本家になる準備はできてる?」
「富裕層ではないけど、それなりに人生を送る準備はできてる?」
“みんな”が競争に敗れた者を無視しててんじゃなくて、新自由主義が無視してたんだ。
「なんだ、そんなことだったのかよ!」〉(『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』より。以下同)