安倍首相をはじめ、憲法改正に向けてひた走る人々はしばしば「愛国心」という言葉を用いる。しかし、それは本当に「国を愛する」という意味の言葉なのか? 「週刊現代」2006年8月19日・26日合併号に掲載された藤原紀香との対談のなかで井上は、為政者が喧伝する「愛国心」の真の姿をこのように断じている。
「自分が住む土地の自然や文化・生活、家族が好きだという愛国心です。ところが、その愛国心は政治家に利用されてしまうことがあるんです。
第二次世界大戦で日本は、「愛する国のために戦え」と国民を戦争に送り込み、純真な子どもたちを軍国少年に仕立て上げた。小泉首相もさかんに「国を愛する心」なんて言うけど、彼が押しつける愛国心は、「自分が行う政治を愛せ」という意味でしかないですね」
この「小泉首相」を「安倍首相」に代入しても、そっくりそのまま通じることは言うまでもない。
1945年8月15日から2017年5月3日の今日まで、この国はどうにかこうにか、戦争によって誰も殺されず、また殺さずに済んできた。70年以上にわたって続いてきたその歴史が、いま、変えさせられようとしている。本当にそれでいいのか? 国民ひとりひとりがもう一度よく考えるべきだ。『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』からこの言葉を引いて本稿を閉じたい。
〈この六十年にわたって、私たちは目先のことに惑わされて、いろんなものを簡単に捨ててきました。日本にあるものはたいていつまらないものばかりだから捨ててしまってもかまわないという考え方は、日本にあるものはすべて尊いとする考え方と同じように、まちがいだと私は思います。捨ててよいものもあれば捨ててはいけないものもあって、後者の代表が日本国憲法ではないでしょうか〉
(編集部)
最終更新:2017.12.01 04:30